記事公開日:2022/08/25
最終更新日:2022/09/18
2022年5月に、宅地建物取引業法が改正されました。宅地建物取引業法が改正されたことで、今までの不動産取引の方法が大きく変わります。宅地建物取引業法は不動産業界にとって特に重要な法律のため、不動産関連の仕事に従事する人は改正内容について押さえておきましょう。
今回は、宅建業法における改正内容や改正後のメリット、注意点について解説します。
目次
宅地建物取引業法とは、建物や土地などに関する免許制度や規制を定めた法律のことで、健全な不動産取引を促進するために制定されました。宅地建物取引をするためには「宅地建物取引士」と呼ばれている国家資格が必要で、資格取得を目指して勉強している方も少なくありません。
試験の合格率は15~17%と狭き門ですが、資格を取得するとさまざまな優遇が受けられます。今は宅地建物取引士の資格を持っていない不動産営業マンの人も、将来的には資格取得を検討してはいかがでしょうか。
宅地建物取引業法は2021年5月19日に法改正がなされ、2022年5月18日に施行されました。宅建業法改正の目的は、日本が進めている「デジタル社会」の形成実現に近づけるためとされています。
今まで宅地建物取引における契約締結は、書面での署名・押印しか認められていませんでした。しかし、デジタル社会を形成するためには、書面だけしか認められていない不動産取引は矛盾が生じます。このような矛盾をなくすために、法改正がなされたというわけです。
宅建業法改正によって、以下のような変化が起こっています。
今までは対面かつ書面での契約が必須だった一部の契約が、今回の法改正によって電子化できるようになりました。遠方の顧客との商談もスムーズに進むため、業務効率化・残業時間の削減に期待できます。
2022年5月から可能になった不動産取引の電子契約ですが、「従来どおり書面での契約ではダメなの?」と疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。不動産取引を電子契約で結んだ場合、主に以下のようなメリットが得られます。
上記3つのメリットについて、詳しい内容を見ていきましょう。
まずは費用面で大きなメリットがあります。書面での不動産契約には印紙税の納付が必要ですが、電子契約にすることで印紙税が不要になるからです。
印紙税とは、一部の商用取引書面に課税される税金のことです。印紙税は、領収書や株券、不動産売買契約書や土地賃貸契約書などに課せられます。1万円を超える不動産取引には印紙税が必要となり、納税額は取引金額によって以下のように異なります。
取引金額 | 印紙税 |
1万円未満 | 0円 |
10万円以下 | 200円 |
50万円以下 | 400円 |
100万円以下 | 1,000円 |
500万円以下 | 2,000円 |
1,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円以下 | 2万円 |
1億円以下 | 6万円 |
5億円以下 | 10万円 |
10億円以下 | 20万円 |
50億円以下 | 40万円 |
50億円超 | 60万円 |
記載がないもの | 200円 |
取引金額 | 印紙税 |
1万円未満 | 0円 |
50万円以下 | 200円 |
100万円以下 | 500円 |
500万円以下 | 1,000円 |
1,000万円以下 | 5,000円 |
5,000万円以下 | 1万円 |
1億円以下 | 3万円 |
5億円以下 | 6万円 |
10億円以下 | 16万円 |
50億円以下 | 32万円 |
50億円超 | 48万円 |
記載がないもの | 200円 |
取引金額が大きければ大きいほど印紙税を支払う必要があり、場合によっては60万円近い税金を支払わなければいけません。不動産取引を電子契約に移行するだけで、高額な印紙税を節約できます。
毎日忙しい業務に追われている不動産営業マンにとって、オンライン上で手続きができるのは大きなメリットといえます。従来の書面契約では、遠方の顧客との不動産契約には契約書を郵送する必要がありました。郵送には時間や手間、コストがかかりますが、電子契約に移行すればコストカット・業務の円滑化に繋がり、リアルタイムで契約が締結できます。
また、対面契約の場合は不動産営業マン・顧客のどちらかが移動する必要があります。移動にもコストや手間がかかるため、1日に何件も契約を行う場合は移動のいらない電子契約の方がスムーズです。電子契約にすることで、不動産業界のリモートワーク化も進むことでしょう。
不動産関連の契約書は、5年間保管することが宅建法で定められています。多くの顧客と不動産契約をする不動産会社にとって、契約書の保管は社内のスペースを大きく奪ってしまうでしょう。また、後から見直せるよう整理やファイリングを行うには、手間と時間が余分にかかってしまいます。
しかし、電子契約にするとオンライン上で契約書が保管できるので、スペースを気にする必要がありません。また、必要な文書を手間なく検索できるため、管理コストも少なくなります。そして、契約書には顧客の大切な個人情報が記載されているので、書類の紛失による個人情報の紛失を防げるのも電子契約のメリットのひとつといえます。
コストカットや作業効率化などさまざまなメリットがある不動産取引の電子契約ですが、以下の注意点に気をつけなければいけません。
これらを考慮しないと契約自体が無効になってしまう可能性もあるため、電子契約を行う際は事前に確認しておきましょう。
電子契約は、不動産営業マン・顧客双方の環境を整えなければいけません。電子契約は近年数を増やしている契約方法ですが、そもそも不動産会社の方が対応できていないケースも珍しくありません。もし不動産会社が電子契約に対応していても、顧客が対応していなければそこで話が終わってしまいます。
また一部の顧客や企業では、セキュリティの面において書面での契約書にこだわっているケースもあります。双方が電子契約に納得しないと電子での契約締結ができないため、理解と協力を得られるよう電子契約の特徴やメリットを伝えて交渉しましょう。
電子契約の書類は、データベース上に保管されるため保管スペースや管理コストは必要ありません。しかし、電子上にはコンピューターウイルスやサイバー攻撃といったさまざまなリスクが潜んでいる可能性もあります。
このようなリスクに巻き込まれると、データの漏洩や消失のおそれがあります。契約書には重要な内容や個人情報が記載されているため、漏洩や消失が起こると契約者からの信用を大きく損ねてしまうでしょう。
インターネットには、さまざまなセキュリティ対策があります。セキュリティソフトを入れたりバックアップを取ったりするなど、あらゆるリスクに備え適切なセキュリティ対策を行いましょう。
宅地建物取引業法の改正によって、不動産取引の電子契約が可能になりました。これまで対面や郵送で行っていた契約締結をオンライン上で済ませられるのは大きな変化といえるでしょう。
そんな電子契約には主に3つのメリットがあります。
ただし、電子契約の導入にはいくつか注意しなければならない点があり、それらをクリアしないと電子契約ができません。メリットと注意点の双方を意識し、これまでの契約を電子化して業務効率を改善させましょう。もし電子契約の準備が進んでいないようであれば、電子契約ができる環境整備について一度考えてみてはいかがでしょうか。