記事公開日:2022/06/23
最終更新日:2022/09/18
従来、契約書のやり取りは対面かつ書面への署名と捺印がマストでした。しかし近年は、さまざまな業界で電子契約化が進んでいます。不動産業界においても、賃貸・売買問わずさまざまな場面で契約を交わす場面が多く、どのようなときに電子契約が有効になるのかわからないという方も少なくありません。
今回は不動産取引における電子契約において、概要やメリット、注意点などを解説していきますので、契約業務について詳しく知りたいと考えている方はぜひチェックしてください。
目次
電子契約とは、電子データに電子署名や電子サインを使って締結する契約のことです。今までは対面で契約書に署名・捺印するのが一般的でしたが、近年は電子契約にシフトする業界も増加しています。
不動産業界は、賃貸借契約・不動産売買契約・駐車場契約など多くの契約シーンがあり、2022年5月現在、不動産業界においては一部の契約において電子契約が認められています。しかし、その他の契約では依然として対面での署名・捺印が求められているため、各契約の電子化を望む不動産営業マンも少なくありません。
電磁的方法とは、電子を使ったファイルの移動のことを指します。たとえばメール送信やインターネットの書き込み、CDへの出力などが挙げられます。
従来、不動産業界のほとんどの契約は紙で行われていましたが、電磁的方法での交付が可能になり、オンライン上で契約が結べるようになりました。たとえば売買契約・賃貸契約の場合、以下の契約書類において電子契約システムを活用することが可能です。
今までは書面契約が必須で、オンライン上で行うのが難しい状況でした。しかし、2021年の法改正により、上記の書面であればオンライン上でやり取りできるようになりました。
不動産業界の契約が電子契約化された背景は、2021年5月19日に交付・2021年9月1日に施行されたデジタル改革関連法の法改正です。この法改正により、今までは書面での署名・捺印が必要だった書面におけるデジタル化の見直しがなされました。
法改正により、借地借家法や宅建業法で定められた書面交付義務も見直しの対象となりました。紙による交付が必要だった書面の電磁的方法による交付が認められ、利便性の向上と負担の軽減に繋がることが予想されます。
参考:総務省 「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の概要」
不動産業界においては、以下の取引の電子契約が認められました。
上記は主に借地借家法や宅建業法が関わる契約です。特に宅建業法改正については、2022年5月18日に宅建業法改正が行われ、以下の書類に関しては押印不要となりました。
ただし、借地借家法における事業用定期借地契約書(公正証書以外)や、宅建業法におけるクーリングオフの通知書面については、依然として紙での交付が必要です。
不動産取引の電子契約サービスは、顧客だけでなく不動産業界に従事している人たちにも多くのメリットがあります。
ここからは、上記3つのメリットについて詳しく解説していきます。
電子契約サービスを活用することで、オンライン上で契約手続きを済ませることが可能です。遠方の顧客などと非対面で契約を行う場合、郵送で契約書類をやり取りする必要があり、多くの手間や時間がかかっていました。しかし、オンライン上ではそのようなやり取りは不要であり、時間・労力などのコストカットに効果的です。
対面契約と比べても、オンラインでの非対面契約は有効です。対面契約は顧客に訪問してもらうか、営業マンが訪問する必要があるため、リモート業務ができませんでした。しかし、電子契約化が進んだ場合、場所にとらわれることなく契約を交わせます。
お互いの移動の時間が省けるのも、不動産取引の電子化の大きなメリットといえます。
不動産業界は、契約の種類が特に多く、契約書を発行するたびに以下の費用がかかっていました。
特に不動産業界は取引金額が大きいため、印紙税には莫大なコストがかかってしまいます。印紙税とは、書類作成時に支払う必要のある税金のことです。取引金額によって納める税金は異なり、1億を超える不動産売買の場合は一枚につき4万円もの印紙税を支払う必要があります。
紙での契約では必要な印紙税は、電子的に記録された契約書には必要ありません。不動産取引の電子契約化が進めば、上記にかかっていたさまざまな費用をすべてカットできます。
紙の契約書は紛失リスクが高く、保管場所も取られてしまいます。一方、電子契約ならデータベース上で情報の保管・管理ができます。また、専用のシステムを活用すれば、進捗状況や有効期限などを把握しつつ一元管理することも可能です。
一元管理が叶うことで、有効期限間近の契約にアラートを出すのも容易になるほか、進捗作業が見える化されるため、締結漏れを心配する必要がありません。契約更新のタイミングも自動的に受け取ることができ、過去の契約書もすぐに見直せるため、コンプライアンスやガバナンスの強化にも繋がります。
顧客だけでなく、不動産業界に従事しているすべての人にメリットがある不動産取引の電子契約化ですが、以下の点に注意が必要です。
場合によっては契約自体が無効になってしまう可能性もあるため、電子契約を行う際は上記3つのポイントをチェックしておきましょう。
2021年公布のデジタル改革関連法で多くの契約が電子契約化されましたが、すべての書面が電子化されたわけではありません。以下の書面は紙での交付・締結が必要です。
これらを電子契約で行うのは認められていないため、今まで通り契約書類を用意し、対面または郵送でやり取りをする必要があります。
また、電子契約は新しい契約方法のため、取引相手によっては好ましく思われないケースもあります。「紙の契約書の方が安心する」という人もいるため、契約締結の前に電子契約について詳しく説明し、納得してもらったうえで契約を結びましょう。
電子契約での契約書は、データベース上に保管されます。しかし、こちらはコンピューターウイルスやサイバー攻撃など、さまざまなリスクが潜んでいる場所でもあります。
何らかのトラブルが発生してしまった場合、データの漏洩や消失の可能性が高いです。契約書のデータがなくなると顧客に多大なる迷惑をかけ、信用問題にも繋がるため、セキュリティ対策を入念に行う必要があるといえます。
データの消失に備え、定期的にバックアップを取ることも重要です。あらゆるリスクに備え、適切なセキュリティ対策を行いましょう。
電子契約を結ぶ前に、顧客のネット環境やツールの設定状況を確認しなければなりません。いくらこちらの準備が整っていたとしても、顧客が電子契約に対応していなければ契約締結は難しいといえます。
これまでの慣習など、書類での契約書にこだわっている会社もあるので、そのような場合は取引先に交渉する必要があります。電子契約を行う場合は、電子契約の概要やメリットを入念に顧客に説明しなければいけません。紙の契約書の方が安心する顧客も多いので、理解と協力を得ることが重要です。
不動産取引における電子契約は、以下の流れで行います。
不動産取引において、重要事項を説明する重要事項説明は必須の項目です。IT重説は、ZOOMなどのWeb会議システムを用いて行われるのが一般的です。
不動産取引において、重要事項説明書は書面で交付しなければいけません。電子契約化が進んだ現在は、メールで送ったりサーバーにアップしたりすることで、顧客に重要事項説明書を交付できます。重要事項説明が終わると、顧客は電子署名を行います。
不動産取引は双方による意思表示の合致が必要なため、当事者が署名・捺印しなければいけません。電子契約においては、電子署名が署名・捺印の役割を果たします。
不動産取引における電子契約化が進み、今までは書面でしか認められていなかった契約がオンライン上で結べるようになりました。2021年5月の法改正をきっかけに、さまざまな契約がオンライン上で締結できるようになりましたが、いまだ紙媒体の契約も残っており、今後の法整備に注目が集まっています。
不動産取引を電子契約化するメリットは、以下の3つです。
電子契約には多くのメリットがある一方、注意点もあるので、顧客や取引先と相談しながら慎重に電子取引を進めてみてください。