記事公開日:2022/06/23
最終更新日:2024/01/11
契約業務では「覚書」の書類を作成し、当事者間で管理しなければなりません。一般的なビジネスシーンや賃貸仲介営業では、各書類との違いを把握しなければ、書類作成の目的や役割が不明なまま業務を進めてしまうおそれがあります。曖昧な知識ではトラブル発展のリスクがあるため、事前に基礎知識を頭に入れておきましょう。
今回は覚書とはどのような書類なのか、他の書類との違いや盛り込む内容などについて解説します。ビジネスシーンや賃貸仲介営業の場面で、実際に覚書を書く際のポイントについても触れているので、実際の契約シーンをイメージしながらチェックしてみてください。
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目次
覚書とは、「契約内容について双方で合意した」ことを証明する書類です。覚書を契約者間で保管することにより、認識の齟齬や契約上のトラブルを防げます。
さらに、契約内容に変更があった場合も、覚書に変更内容や変更期日を記します。安易な契約変更を防げるほか、変更のたびに新たな契約書を用意する手間もかかりません。また、覚書には法的効力があるため、遵守されない場合は契約不履行となる可能性があります。
賃貸仲介営業の場合、契約内容の変更があった際などに覚書を使用することがあります。覚書と各書類の違いをしっかり把握しましょう。
覚書と契約書の違いについて、以下の表で見ていきましょう。
覚書 | 契約書 | |
記載内容 | 契約へ合意する旨 | 具体的な契約内容(支払い条件や引渡し時期など) |
役割と特徴 | ・契約意思の確認 ・契約不履行や契約内容の強引な変更を防ぐ ・契約の変更内容を記す | ・取引の円滑化 ・契約不履行などのトラブルを防ぐ ・裁判へ発展した際の証拠書類 |
法的効力 | あり | あり |
契約書は契約内容を明確に記す書類なので、契約時に提示しておけば後に起こりうるトラブル(契約不履行や紛争)を防げます。一方、覚書は契約書を補佐する役割があり、互いの意思が合致したことを示すための書類です。定義と役割がそれぞれ異なるため、各書類の違いを理解したうえで利用しましょう。
覚書と念書の違いは次のとおりです。
覚書 | 念書 | |
記載内容 | 契約へ合意する旨 | 契約内容の確認事項 |
役割と特徴 | ・契約意思の確認 ・契約不履行や契約内容の強引な変更を防ぐ ・契約の変更内容を記す | ・契約締結を証明する ・一方からのみ差し入れる |
法的効力 | あり | なし |
念書は「契約締結を証明」するための書類であり、確約を目的としています。送られた相手は契約を守る義務があるものの、念書そのものに法的効力はありません。
覚書を書くメリットは以下の4つが挙げられます。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
覚書は、両者が内容に合意し締結したことを明確にすることができます。賃貸仲介営業の現場では、契約内容や条件の変更など、口頭のみでのやりとりの場合も珍しくありません。そのような場合に覚書を使用します。
なお、一般的な営業の現場では、請求先や支払い期限の変更の際に覚書が用いられることがあります。
覚書は、条件の変更部分のみを明確化します。変更履歴がわかりやすくなるので、継続的に取引が行われる長期間の契約の際に役立つといわれています。
賃貸仲介営業の場合、月極ガレージに駐車する車種を変更するときに覚書が作成されることが多いです。変更の履歴がわかれば、盗難されたのか、それとも単なる買替えなのかが一目で判断できるからです。
覚書を作成することで、同意内容が明確になり、「履行しないといけない」といったプレッシャーを顧客に与えることができます。契約書のみの場合は、さまざまな条項が記載されているので内容がおぼろげになりがちですが、覚書を作成することで、変更内容だけに意識を向けさせることが可能です。
賃貸仲介営業の現場では、家賃支払いの期限を変更する際に覚書を作成します。内容を明確に表示し、家賃を期限までに納めなければいけないというプレッシャーを与えるためです。
一般的な営業マンの場合、納品変更の際に、納品数を覚書に明記します。これにより、納品の漏れをなくす効果が期待されます。
覚書には、将来起こりうるトラブルに対応しやすくなるというメリットがあります。契約書だけで多くのトラブルに対応することは難しいので、発生しやすいトラブルを覚書に明記し交付します。
賃貸仲介営業では、室内で犬を飼う場合に覚書を作成することが多いです。そうすることで、鳴き声によるクレームが出た場合の対応がしやすくなるからです。
ここでは見やすい&読みやすい覚書を書くポイントを3つ解説します。以下のポイントを押さえて、双方が扱いやすい覚書を作成しましょう。
覚書を書く際は、当事者を指す「甲」「乙」の略称を間違えてはいけません。契約書類では、当事者の名称を甲、乙などの略称で記載します。
以下のように、当事者を甲・乙に当てはめて書類上の登場人物を明確にしましょう。
以降の文章では、当事者の名称を甲・乙で記載します。新たに覚書を作成する場合も、当てはめた略称はそのまま使用しましょう。誰が見ても書類上の登場人物を把握できるよう配慮することが大切です。
契約内容に変更がある場合は、その旨を記載・明示しなければなりません。具体的な変更内容と期日を記載して、「どの部分に双方が同意したのか」を明確化しましょう。
また、一方的に契約を変更して覚書を作成したとしても、相手の同意が得られていなければ法的効力はありません。事前に話し合いの場を設け、相手方の同意を得てから契約内容の変更を行う必要があります。
覚書を作成する際は、当事者間で決めた合意事項を確認する文言を入れましょう。契約内容や変更箇所を記載しただけでは、「契約へ合意した」という旨が証明できません。
誰が・何を確認して合意したのかを明記することで、トラブル発生の際は証拠書類としても活用できます。契約不履行への抑止力としても働くため、覚書作成時は「今回の覚書にある○○という内容について相違はありません」などの文言を記載しておきましょう。
次に、覚書作成時に盛り込むべき内容を4つ解説します。法的効力の有無に関わる要素も含まれているので、作成の際は参考にしてみてください。
覚書には表題を記載して、何の契約に関する書類なのか明確にしましょう。表題はあくまでもタイトルのような扱いなので、以下のような簡潔な書き方でも問題ありません。
表題そのものに法的効力は働かないものの、内容とかけ離れた表題は避けましょう。覚書を確認する際、表題と内容が異なると誤解や混乱を招くおそれがあります。
前文は、本文(合意内容)の概要や覚書の目的などを明確化するために記載します。以下のポイントを押さえて、前文を作成しましょう。
前文に決まった様式はありませんが、書き方は慣行化されています。書き方の例については後述するので、覚書作成時は参考にしてみてください。
合意内容では、「何の契約に対し、誰が・いつ合意したのか」を明記します。以下のポイントを押さえて、合意内容を記載しましょう。
合意内容が明確でない場合、トラブル発生時は法的効力のある書類として認められないリスクがあります。合意内容は法的効力の有無に関わる重要な要素なので、曖昧な解釈が成立する内容は避けましょう。
覚書には日付と署名・捺印も記載して、法的効力を担保します。各項目を設ける際の注意点は次のとおりです。
覚書は契約へ合意したことを示す書類なので、契約締結日ではなく覚書にサイン(署名+捺印)した日付を記載しなければなりません。たとえば不動産仲介業者の場合、マンションの売買契約日をそのまま記載してしまうといったケアレスミスも少なくありません。また、署名と捺印がなければ双方で契約内容に合意したことを示せないおそれがあるため注意しましょう。
家賃の改定を例に覚書のフォーマットを紹介するので、作成時は参考にしてみてください。
表題 | 賃料改定に関する覚書 |
前文 | 賃貸人〇〇(以下、甲という)と賃借人〇〇(以下、乙という)、乙の連帯保証人〇〇(以下、丙という)は、 〇年〇月〇日付け(アパート賃貸借)契約書 第〇条(賃料) に関して以下のとおり、改定することに合意する。 |
合意内容(変更内容) | 第〇条(改定の内容) 賃 料 金〇〇〇〇円/月と改定する。 第〇条(改定の期日)〇年〇月〇日より、第〇条の賃料に改定する。〇年〇月末日を期限とする〇月分の賃料支払いから上記金額が適用される。 以上、甲乙丙の間で賃料改定へ合意する証として、 本書3通を作成し、甲乙丙それぞれ署名捺印のうえ各1通を保有する。 |
日付 | 〇年〇月〇日 賃貸人(甲)住 所 会社名 社印 氏 名 印(自署又は記名/捺印) 賃借人(乙)住 所 氏 名 印(自署又は記名/捺印) 連帯保証人(丙)住 所 氏 名 印(自署又は記名/捺印) |
各項目を設ける際は先述した盛り込むべき内容をチェックして、当事者が理解しやすく法的効力のある覚書を作成しましょう。書式や様式は具体的に定められていませんが、社内で決められたフォーマットがある場合はそちらを参照してください。
覚書を作成するうえでの注意点は下記の3つです。
上記の注意点について、詳しく解説します。
覚書を修正する場合は、覚書を修正する覚書が必要です。覚書は、両者が合意した内容を記載する書面なので、「覚書に二重線を引いて直す」「訂正印を押印して修正する」といったことは厳禁です。
賃貸仲介営業の現場では、同居人変更の覚書を作成した後に同居人の氏名が変更された場合、その内容を変更する覚書を作成しなければいけません。
覚書は、内容によって収入印紙を貼る必要があり、この場合は「課税文書」として扱われます。課税文書に該当するかどうかわからない方は、国税庁のホームページで確認しましょう。
もし課税文書にもかかわらず印紙を貼り付けていない場合は、罰則を受ける可能性があるので注意が必要です。賃貸仲介営業の現場では、家賃の支払い方法や家賃変更の覚書の際に収入印紙を貼る必要があります。
参考:印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで |国税庁
覚書では甲・乙という呼称が用いられます。甲・乙を使用する際、立場の強い方を「甲」とするのが一般的です。
賃貸仲介営業の場合は、甲がお客様、自社が乙になります。また、覚書はさまざまな場面で必要になりますので、その都度立場を考えて作成しましょう。
覚書で契約書内容を変更する場合に注意すべきポイントは、主に以下の3つです。
それでは詳しく見ていきましょう。
覚書で契約内容を変更する際、元の内容から変更する点と変更しない点の2つに分かれます。変更がある点は、内容の漏れがないように記載することはもちろん、変更しない点がある場合はその内容を記載しなければいけません。
たとえば、変更しない点がある場合は「甲及び乙は、本覚書に記載のない事項については原契約に記した通りの規定に従う」などの文言を覚書に明記しましょう。なお、賃貸仲介営業の現場では、「更新料は変更するが家賃はそのまま」などの場合に記載します。
覚書で内容を変更する場合、具体的にどのような変更なのかをはっきりさせなければいけません。どの文書の変更なのかを明確にしなければ、場合によっては大きなトラブルに発展してしまう可能性があるからです。
賃貸仲介営業では、「令和◯年◯月◯日締結の賃貸借契約に記載した内容の一部を変更することに双方が同意する」などの記載をすることが多いです。
契約内容を変更する際、特定の日付から効力が発生するという内容を書く場合があります。そのような場合、いつから変更点が適用されるかの日付を明記しなければなりません。
賃貸仲介営業の場合、「前項の家賃の変更は令和◯年◯月◯日より適用されるものとする」と書くことが多いです。
覚書とあわせて覚えたいビジネス文書には下記があります。
それぞれの内容について詳しく解説します。
合意書とは、当事者間でお互いに合意した内容をまとめておく書面のことです。合意書は契約書などとは違い、取引に関係のない事項でも使用されます。
賃貸仲介営業の現場では、マンションの騒音や異臭によるトラブルの和解の際に合意書が使用されます。
念書は、両者が合意するものではなく、一方が約束事を証明するための書面です。念書には法的拘束力はありません。
一般的な営業の現場では、取引先に機密情報を守ってもらうための念書を作成することがあります。一方、賃貸仲介営業では、家賃滞納の返済方法や返済期限の念書を作成し、入居者に交付することが多いです。
誓約書は、提出者が提出先に約束事を記し、それを守るということを明示した書面です。契約書は双方に拘束力が発生しますが、誓約書では誓約した一方のみが拘束されるという特徴があります。
一般的な営業の現場では、社内の規定や命令に従うための誓約書を作成することが多くあります。一方、賃貸仲介営業では、暴力団排除の条項に関する誓約書を作成することが多いです。
報告書は特定の事項を報告するために作成される書面です。ビジネスマナーの3要素(報告・連絡・相談)のひとつにもなっている重要な書面です。
一般的な営業マンの現場では、調査や研究結果を報告する際に使用します。一方、賃貸仲介営業の現場では、マンションのオーナーに向けた報告書を作成することがあります。具体的には、リフォームの完成報告書やクレーム対応の報告書などです。
稟議書は上長から承諾を得るための書面です。一般的な営業の現場では、経費を使って物品を購入する際に作成されます。また、会議を開く手間を省くために稟議書を使うケースも少なくありません。
賃貸仲介営業では、マンションオーナーに向けて、何らかの提案をするときに稟議書が使われることがあります。たとえば、「リフォームが済んでいる部屋の家賃を提案する」といった場合、稟議書にリフォームにかかった費用などをまとめ、根拠を示せば説得力が増します。
覚書は、契約上のトラブル回避や契約上の法的効力を高めるために作成する書類です。書き方を十分に理解しなければ法的効力が損なわれるおそれがあるほか、意図しない契約内容へ変更されるリスクもあります。
書き方のポイントを押さえて、契約上のリスクを軽減させましょう。
覚書作成の際は合意内容や日付・署名(捺印)に注意が必要です。これらは法的効力の有無に影響するため、一つひとつ確認しながら覚書を作成してみてください。
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