記事公開日:2024/11/14
最終更新日:2024/11/14
不動産業界は、取引額が大きく顧客の期待も高いため、カスタマーハラスメント(カスハラ)が発生しやすい環境です。
顧客からの過剰な要求や感情的な対応により、現場の営業スタッフは大きなストレスを抱えることが少なくありません。特に、契約内容や費用に関する誤解、対応時間外での要求などがトラブルの原因になりがちです。
しかし、問題に対処するための適切な対策を講じることで、業務の円滑化が期待できます。そこで今回は、不動産業界で実際に発生するカスハラ事例と対策方法について解説します。不動産会社で働いている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客からの過剰なクレームや言動により、社員が不適切な扱いを受け、精神的・身体的に負担を強いられる行為を指します。
具体的には、顧客の要求が社会通念を超え、業務の適正な範囲を逸脱している場合がカスハラとみなされます。これは単なるクレームとは異なり、顧客が一方的に不当な要求を繰り返し、社員が対応を続けることで大きな精神的負担がかかる状況です。
不動産業界では、高額な取引や複雑な契約内容が絡むことから、顧客の期待が高まりやすく、カスハラが発生するリスクが高いと言われています。カスハラが発生すると、社員のストレスが増加し、離職率の上昇にもつながり、企業全体にとって深刻な問題となります。
不動産業界では、顧客からの過剰な要求やクレーム、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が頻繁に発生します。考えられる主な理由は、以下のとおりです。
賃貸契約時には高額な契約金を支払うため、取引に関する顧客の期待が高まります。敷金、礼金、仲介手数料などの初期費用が家賃の5〜6倍と高額になるケースが多いため、顧客は「完璧なサービスを受けられて快適な物件に住める」と考えがちです。
万が一、入居後に設備の不具合や契約時の説明と異なる点が発見されると「高額な支払いに見合っていない」と感じ、過剰なクレームや要求へとエスカレートすることがあります。
また、不動産取引には多くの法律や規則が関わり、契約内容も非常に複雑です。初めて不動産取引に携わる顧客にとっては、その複雑さが理解しづらく、結果的にトラブルが発生することがあります。契約内容を完全に理解できていない不安が怒りに変わることで、カスハラが発生するケースも多いのです。
さらに不動産は、顧客の生活基盤そのものです。したがって、物件に関する問題や取引に伴うトラブルは、顧客の生活の質に直接影響を及ぼします。例えば、引越し時に発生した問題や契約後に気づいた設備不良などが、日常生活に大きな支障を与えることもあるため、注意が必要です。
ここでは、実際に賃貸仲介業者が直面した具体的なカスハラ事例を紹介します。
契約時の「敷金」や「礼金」といった初期費用は、顧客との間でトラブルの種になることがあります。このケースの顧客は、礼金は「返金されるもの」と誤解しており、退去時に返金されないことに対して強い不満を抱きました。
顧客は繰り返し礼金の返金を要求し、断られると毎日電話をかけてきたり、怒鳴ったりして営業スタッフに圧力をかけたそうです。最終的に上司が対応に出て、詳細な説明を繰り返し行うことで、ようやく顧客の理解を得ることができました。
このような問題を防ぐためには、事前に費用の詳細をしっかり説明し、書面で確認してもらうことが重要です。また、説明内容を記録に残すことで、後からのトラブルに対処しやすくなります。
賃貸仲介では、顧客が「高額な取引だから当然だ」として、自分の都合に合わせた時間での案内や商談を要求することがあります。このケースでは、顧客が夜間や定休日にもかかわらず「顧客に合わせるのは当然」と主張して、営業時間外での対応を強要しました。
営業スタッフは断り切れず対応することになり、私生活(プライベート時間)の確保にも支障をきたしました。
事前に営業時間と対応可能な時間帯を明確に伝え、無理な要求を予防することが大切です。顧客に対して丁寧に「営業時間内での対応が基本」と説明し、理解を得ることで双方にとって良好な関係を築けます。
この事例は、早朝や深夜など非常識な時間帯に頻繁に連絡を受け、人格否定を含む厳しいクレームを受けるケースです。顧客が執拗に謝罪を求めて連絡を続け、過度な要求を繰り返して仲介業者に大きな負担をかけました。
顧客の怒りが収まらず、誤解や不満が積み重なっている状況では冷静な対応が特に重要です。
対策としては、まず定期的な連絡時間を設定し、業務時間外の対応を極力控えることが挙げられます。また、対応窓口を一本化し、社員が無理な対応を強いられないように体制を整えることも効果的です。さらに、複数名で対応を分担したり、専門のサポートスタッフを配置したりと、社員の負担を軽減する施策も必要です。
賃貸仲介業界においてカスハラへの対処は、社員を守り、業務効率を高めるためにも重要です。ここでは、一般社員、管理職、企業全体の視点から、具体的な対策方法と実際の対応例を解説します。
顧客が感情的になっている場合、冷静に対応することで状況がエスカレートしにくくなります。自分の話し方や態度が落ち着いていると、顧客も自然と冷静さを取り戻すことが多いです。
また、会社で定められた対応マニュアルに従い、過剰な要求やクレームが発生した際も迅速かつ適切に対応するように心がけます。
■具体的な対処例
部下がカスハラに遭遇した際、管理職が早急に対応することで、事態のエスカレートを防ぎ、社員の負担も軽減できます。
例えば、顧客が怒鳴る、繰り返し不当な要求をするなどの場合、管理職が直接対応に出て、冷静かつ落ち着いた口調で顧客の話を聞き、部下を守る姿勢を示すことが重要です。
■具体的な対処例
企業全体での対策として、カスハラ防止の社内方針を明確にし、全社員がその対応ルールを理解できるように徹底します。例えば、顧客対応に関する具体的な手順やフローをまとめたマニュアルを整備し、どの段階で誰にエスカレートするかの基準を明確に設定します。
■具体的な対処例
カスハラ対応の一環として、最新のクレーム対策ツールやAIを活用したクレーム分析システムを導入し、対応履歴を一元管理できるシステムを構築することもおすすめです。例えば、AIが過去の対応履歴から類似ケースを提案し、迅速な対応ができるようサポートすることも可能です。
参考資料:日経クロステック「カスハラに苦しむ電話オペレーターを生成AIが励ます、トランスコスモスの2つの対策」
これらの取り組みにより、管理会社と顧客間のトラブルを未然に防ぎ、不動産業者がより安全な労働環境を確保することが期待されています。
国土交通省は、不動産業界のカスハラ対策として、特にマンションの管理契約に関する標準委託契約書を改訂し、新たな対応規定を追加しています。この改訂には、管理会社が住民からの過剰な要求や暴言を受けないよう、管理組合から業務指示を出す担当者を事前に明確にすることなどが含まれています。
これに加えて、マンション管理に関連する他の業務においても、住民からのカスハラに対処するため、契約書内で業務の範囲や住民対応の制限を明記するなど、実際の業務上で防止策を講じやすくする内容が含まれています。
これらの取り組みにより、管理会社と顧客間のトラブルを未然に防ぎ、不動産業者がより安全な労働環境を確保することが期待されています。
参考資料:国土交通省|マンション標準管理委託契約書を改訂しました~マンションの管理の適正化に向けて~
不動産業界でのカスハラは、社員の負担を増加させる大きな課題です。
しかし、具体的な対処法や効果的な社内体制の構築により、カスハラのリスクを軽減することが可能です。一般社員から管理職、そして企業全体での取り組みが、不動産業務の質向上につながります。国土交通省による新たな規定の活用も、業界全体の意識向上を促進しています。
今回の記事内容を参考にして、今後のカスハラ対策を強化し、より働きやすい職場環境を目指しましょう。不動産業界に関わる全ての方が、安心して働ける職場作りに貢献するために、対策の実践が大切です。