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賃貸物件オーナーとの付き合い方

記事公開日:2023/09/28

最終更新日:2023/09/28

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荒川雄一

この記事を書いた人

ファイナンシャルプランナー(CFP®)/ 公認 不動産コンサルティングマスター / 中小企業診断士

LINKS GROUP3社の代表として、「資産形成」、「資産管理」、「資産承継」に取り組んでいる。お客様へのコンサルティングを基に、不動産の仲介や売買をはじめ、任意後見や家族信託などのアドバイスを行っている。また、安定した賃貸経営を支援するために、家賃収入などの資産運用についても、投資助言会社IFA JAPANにおいて、国内外の投資信託を用いた運用プランを提供している。

賃貸仲介において、専任か一般仲介なのかによって、物件掲載を含めて力の入れ具合が違うのはやむを得ないことだと思います。会社の売上を安定させるためにも、いかに専任を獲得し、そして管理受託までもっていけるかが重要なポイントと言えます。そのためには、いかに賃貸物件オーナーの心をつかみ、良好な関係を構築できるかがカギを握る事となります。

賃貸物件オーナーと良好な関係を構築するためには、「賃貸経営」の視点から、オーナーにとって有益な情報提供を行うことが重要です。また、仲介会社としては、空室期間をいかに短くできるかが他社との競争を勝ち抜くポイントと言えます。

その観点から、この記事では重要な要素である「空室対策」「継続した有益情報の提供」「賃貸経営を意識した資産承継の支援」について解説していきます。

空室対策

賃貸オーナーにとって最大の関心事は、いかに空室期間を減らし、家賃収入を得るかにあります。いうまでもなく、賃貸経営の売上(利益)に直結する問題だからです。ただ、一般的に行われているように、単純に空室の家賃や賃貸条件の緩和を勧めるだけでは、賃貸仲介会社としての価値を見出してもらうことはできません。それぞれの物件の“強み”と“弱み”をはっきりさせ、適切なタイミングで、リフォームや設備の見直しなどの提案を行うことも重要です。また、入居者の初期費用を抑えた賃貸プランを作ることやリノベーション費用をローンで組めるように、金融機関との連携などもしておくことが、業務の幅を広げることにつながります。

では、一般的に、空室率はどの程度が許容範囲なのでしょうか。逆に言えば、どの程度の入居率を目指すべきなのでしょうか。

まずは、総務省が5年ごとに行う「住宅・土地統計調査」を見てみましょう。前回は平成30年に実施されました。

総住宅数に対する空き家率の円グラフ画像

それによると、総住宅数を居住有無でわけた数と割合(※1)は下記となっています。

居住世帯のある住宅:5,361万6,000戸(85.9%)
居住世帯のない住宅:879万1,000戸(14.1%)

居住世帯なし住宅とは、ふだん人が居住していない住宅のことで、そのうち「空き家」は848万9,000戸で、空き家率は13.6%と、2013年から0.1ポイント上昇しています。

さらに賃貸住宅における最近の傾向を、不動産鑑定業を行っているタスの2023年3月期の「賃貸住宅市場レポート」で見てみましょう。

主要都市における空室率の棒グラフの画像

主要都市における賃貸住宅の空室率(※2)ですが、まず、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の空室率は10.03%、東京都(23区)は9.75%となっています。また、中京エリアでは愛知県12.41%、静岡県が18.10%、関西エリアでは、大阪府9.26%、京都府10.13%、兵庫県12.05%などとなっています。

大都市は競合も多い反面、やはり人口が多いため、空室率は低いことがわかります。ちなみに、実際に筆者が話を伺った全国の賃貸管理をメインで行っている会社の中で、管理戸数を伸ばしているところは、地域を問わず入居率95%(空室率5%未満)を目標としているところが大半です。

最初からはなかなか難しいことではありますが、賃貸管理部門も伸ばすのであれば、最低空室率10%以下(入居率90%)が、1つの目安と言えるでしょう。

継続した有益情報の提供

賃貸経営を考えた場合、経営者であるオーナーに定期的に有益な情報を提供することも重要なサービスの1つと言えます。「近隣に商業施設ができる」「競合物件の建築予定」など地域に根差した情報は、毎月1回、オーナーニュースなどでお伝えしたいものです。

また、賃貸物件は言うまでもなく新築時が一番競争力をもち、その後、建物の劣化や競合物件の増加により、徐々に家賃も低下傾向になるのが一般的です。それに合わせて適切なタイミングで、建物のメンテナンスや設備交換の時期・それに伴う資金手当ての方法なども、できれば事前に情報提供しておきましょう。

突然リフォームやリノベーションでまとまった資金が必要と言われても、多くのオーナーは資金の準備をしていないケースが大半だからです。

賃貸経営を意識した資産承継の支援

オーナーに説明をするスーツ姿の営業マンの画像

古くから賃貸オーナーをされている方の中には、「大家さん」といった意識が強く、「お部屋を店子に貸してあげている」といった感覚をお持ちの方も少なからずいます。ただ、競合物件も増え少子化が進んでいる日本においては、そのような感覚のままでは賃貸経営で生き残っていくことは難しくなってきています。やはり、お客様である入居者の満足度を意識した経営感覚が求められています。

従って、仲介会社としても、継続して賃貸経営を続けていくために、上述の通り有益なアドバイスや情報提供が必要と言えます。

特に賃貸物件は減価償却していく資産のため、将来にわたってどのように不動産を残していくかも重要なテーマです。オーナーがまだ元気なうちに次世代への承継の仕方についても話をしておきたいところです。長年仲介や管理をしていた物件が、相続などで代が変わったタイミングで大手不動産会社に仲介が変更され、知らないうちに売却が進んでしまったという話を多く耳にします。

従って、なるべく現オーナーが元気なうちに、資産承継の意向確認も行っておきましょう。

特に、次世代へも賃貸物件を承継させたいという意向がはっきりしているケースでは、承継される予定のお子様たちとも面識を持ち、賃貸経営をどう承継していくかについて話をしておくことが重要と言えます。また、最近の継承者の特徴としては、お勤めや別の仕事をされているお子様が多くのケースを占めています。そのため、賃貸経営に関する知識はほとんどない方が大半です。

そこで重要となるのが、賃貸経営の考え方をはじめ、収支計算やキャッシュフローなどについて、わかりやすく数値などを用いながら理解してもらうことです。次世代オーナーに寄り添い、問題や課題を共有しながら解決することによって、信頼関係を醸成していくことが可能となります。また、資産承継には必ず将来のご相続なども関連してくるため、税理士などとも協力しながら事前に相続・税金対策についても話ができるようになればかなりの関係構築ができるでしょう。

まとめ

賃貸物件オーナーの特性をよく理解したうえで、オーナーの悩みに耳を傾けると共に、賃貸経営特有の留意点などを、オーナーに適切にアドバイスをすることによって、まずは信頼関係を構築することが重要です。

その上で、物件価値を高める方法や空室期間を短くする手段も駆使しながら、次世代の資産承継をもにらんだ長いお付き合いをすることが、賃貸仲介会社にとって安定した経営基盤の構築につながると言えるでしょう。

参考:

※1:総務省「平成30年 住宅・土地統計調査」
※2:株式会社タス「賃貸住宅市場レポート  首都圏版・関西圏・中京圏・福岡県版 2023年6月」

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