記事公開日:2023/09/28
最終更新日:2023/09/28
賃貸物件は建築後間もない状態ならば「新築」というブランド価値があり、家賃の設定や入居者募集にも苦労することがないかと思います。しかし、どんな物件でも、数年経てば建物の劣化は避けられず、競合物件の登場により、家賃や収益性を維持するのが難しくなってきます。それでも、不動産賃貸仲介・管理会社様として、適切なアドバイスをオーナーに提案し、不動産価値の維持向上を図らなければなりません。また、「資産価値の向上」を図るには、そもそも資産価値とは何で、それはどのように計算されるのかを知ることも必要です。
今回はそんな場合にヒントとなるような、資産価値評価と資産価値向上の方法についてご説明します。
目次
不動産の価値とは、“希少性”や“ブランド”なども一つの価値とはいえますが、今回は“より収益を生む不動産はより価値が高い”と考えることにします。
それならば、この不動産の価値と収益性の関係性はどのように表現できるでしょうか?実は式で簡単に表すことができ、「不動産価値は収益性を還元利回りで割ったもの」、つまり下記のように定義することができます。
V(不動産の価値)=I(不動産の収益)÷R(利回り)
以下、それぞれの項目に対し詳しく説明していきます。
不動産の収益(I)は「総収益―総費用」で表せます。
つまり「少しでも売上(家賃+α)を増加させて、少しでも費用を削減する」ことで、不動産の収益は大きくなります。そして「収益の増加」と「費用の削減」ではその内容が異なりますので、これらを分けて考える必要があります。
家賃が上がれば確かに売上は増えますが、単なる値上げではむしろ空室の発生などのマイナス面が生じるので、「提供する室内空間の付加価値を上げる」とか「借主の満足度を向上させる」ことを目指す必要があります。
具体的な例としては以下のとおりです。
上記のうち①や②はお金がかかるものであるので、オーナーとしては躊躇する人も多いかもしれません。その場合には、比較的お金はかかりませんが、少しだけ手間がかかる③や④を先に実行し、実績を作ってから行うのがいいと思います。
ただし、一度女性限定にしたり、ペット可にすると既存の賃借人離れやむしろ管理が煩雑になる可能性もあるので、その判断は慎重に行う必要があります。また、高齢者の不動産オーナーの中には、宅配ボックスの必要性などがピンと来ない人もいて、大掛かりな支出にならないのに、その設置を望んでいない人もいると思います。しかし、入居者の確実なニーズが見込めるなら、ねばり強く説得して実現することが必要です。
近年のライフスタイルの多様化は想像以上に不動産の様式や設備に影響を与えていると考えられるので、保守的で硬直的な発想になりがちなオーナーに対し、適切な情報を提供していくことも収益性を上げる重要なポイントと言えるでしょう。
費用の中には、なかなか個人の努力では削減できない固定資産税や保険料などの固定費もありますが、やり方次第で改善できる変動費もあるので、その見直しを行うことが必要です。
なお、費用の削減で注意すべき点としては、例えば清掃管理費の削減は望ましいですが、清掃管理の削減、つまり単に週3回だった掃除を週1回にするというのは注意が必要です。
ただ単にサービスの質を低下させることは、家賃の減少や新しい入居者が入りにくくなり空室率が高まることにつながります。
総収益をできるだけ大きくし、総費用をできるだけ小さくすることで、不動産の収益であるIが大きくなるのはお判り頂けたと思います。次に、これを還元利回り(R)で割るということに関してご説明します。
還元利回りとは「将来生み出す収益を現在価値に割り戻すときに採用する利率」のことで通常キャップレートと呼ばれます。
例えば、毎期100万円の収益を生み出す物件があるとして、還元利回りが10%の時は100万円÷10%=1,000万円となり、還元利回りが5%ならば100万円÷5%=2,000万円と計算されます。
ちょっとややこしいですが、国債や社債などと同様に、不動産の価値と還元利回りは逆の関係になります。よって還元利回りが低いほど不動産価値は高く、還元利回りが高いほど不動産の価値は低くなるのです。
先の例の毎期100万円を生み出す物件で、立地が抜群によく、新築のRCで、入居している居住者は安定した企業が社宅として借りている場合をイメージしてみてください。このような物件は長期にわたって収益の確保が見込めるため、リスクが小さく、結果として還元利回りは小さくなります。
100万円を20年以上生み出すことが確実なら、100万円×20年=2,000万円以上の価値があると言え、堅く見積もっても5%の還元利回りとなります。
そして、さらに20年経っても価値が下がらないような物件であるなら、還元利回りはもっと低くなるので、例えば3%ならば、不動産価値は100万÷3%≒3,333万円というように計算されます。
上記の②と同様に毎期100万円を生み出す物件があるとします。しかし、こちらの物件はかなり傷んでいて、すぐにでも潰れそうな倉庫とします。たまたま家賃を払ってくれている会社は倒産や廃業寸前で、代わりに借りてくれる会社も見つかりそうもなく、あったとしても大幅な家賃の減額は避けられそうもなければ、将来も100万円を生み出すことは難しいでしょう。
この場合、不動産が安定的に収益を生み出すリスクは高いと考えられ、還元利回りは高くなり、10%とか、中には30%になる物件もあります。
30%ならば、100万円÷30%≒333万円となり、還元利回りが3%の物件と比較して10倍の価値の差がつくのです。
還元利回りの低い方が、不動産価値が高いということはご理解頂けたと思いますが、そのためには収入や費用で述べた項目以外で、不動産のリスクを軽減し、長く安定的な収益を得ることが必要です。
具体的な方法としては、内装のリフォームやリノベーションだけでなく、建物そのものに手を加えて長持ちさせる必要があります。それには耐震性を向上させ、屋根や壁など構造上の補強をすることなどが考えられます。リフォームやリノベーションよりも多額のお金がかかりますが、収益の安定性には欠かせない投資と言えます。
また、そもそも論になってしまいますが、やはり不動産は立地がものをいいます。先の説明と矛盾するようですが、どんなに収益の向上や費用の削減の対策を行っても、立地によっては効果が得られないこともあります。そんなときは、オーナーが持つ複数の不動産の中から、立地が良好で、将来性が高いものだけを選別し、それに絞って対策を実行することが必要でしょう。
そして、物件によっては早期に処分することを選択するべきです。そうすることで、全般的なポートフォリオを考えた場合のオーナーが得られる収益の永続性に寄与することができると思います。
多くの不動産オーナーは「収入を得るために」に不動産を取得することから、今回のように不動産の価値=収益性と捉え、その収益性を向上させる方法を提案することは有効だと思われます。
しかし、オーナーによってはまったく儲けがなくても相続税や固定資産税などの税金が削減出来ればいいと考える「節税目的」や先祖から受け継いだ土地を手放したくないという「保有目的」で賃貸マンション等をお持ちの人もいます。
このような方々は、不動産経営という意識がないので、設備投資に関してはあまり関心がない傾向にあります。従って、お金を出すことなく、知恵や工夫によって不動産の価値向上のアドバイスをする必要があるでしょう。
いずれの場合においても、日ごろから十分なコミュニケーションを取り、オーナーの意向を理解しているという信頼関係があってこそ、アドバイスが有効になることは言うまでもありません。
参照:
・還元利回り(キャップレート)とは?初心者にも分かりやすく解説
・還元利回りとは?その求め方は? – 不動産実TIPS
・還元利回りとは|不動産用語集|三井住友トラスト不動産
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