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2023年版【将来は明るい?】賃貸仲介業の今後について専門家が考察してみた

記事公開日:2023/03/24

最終更新日:2023/10/01

秋津 智幸

この記事を書いた人

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント

横浜国立大学卒業後、神奈川県住宅供給公社に勤務。その後不動産仲介会社等を経て、独立。現在は、自宅の購入、不動産投資、賃貸住宅など個人が関わる不動産全般に関する相談・コンサルティングを行う。その他、不動産業者向けの企業研修や各種不動産セミナー講師、書籍、コラム等の執筆にも取り組んでいる。

●著書
「賃貸生活AtoZ」(アスペクト)
「失敗ゼロにする不動産投資でお金を増やす!」(アスペクト)

日本は1970年には人口の7%を65歳以上の高齢者が占める「高齢化社会」となり、総人口に占める高齢者の割合が21%を超えると「超高齢社会」と言われる中、2020年には28%となっています。※1

一方「少子化」も1970年代半ばから始まり、1997年には子どもの数が高齢者人口よりも少なくなったことで「少子社会」へ移行しています。※2

現在は「少子・超高齢社会」となっている状況です。また、それまで微増微減を繰り返していた人口も2011年からは増加することなく人口減少が継続しています。※3

この少子高齢化と人口減少の傾向は今後変わらない可能性が高いといえるでしょう。こうした状況の中、賃貸仲介業はどうなっていくのでしょうか。賃貸仲介業は不動産業の中でも一般の個人、特に学生や新社会人など若い世代が最初にかかわりを持つ、最も身近な不動産の業態であるため、売買仲介や開発系の業態よりも先に少子化傾向による人口減少の影響を受ける業態であるともいえるでしょう。ここではいくつかの統計データを見ながら今後の賃貸仲介業について考察していきたいと思います。

日本の住宅市場を取り巻く経済環境

不動産は価格上昇が顕著に

実感されている方も多いと思いますが、しばらく不動産価格の上昇が続いています。国土交通省が公表している2010年を100とする不動産価格指数では令和4年(2022年)10月時点の住宅総合(全国)の価格指数が133.8で、中でもマンションの価格指数は186.4と戸建住宅の114.1と比べて価格上昇が顕著になっています。マンションの多くが中心地にあることを踏まえると、この傾向から特に中心地の住宅価格上昇が顕著であるともいえます。※4

また、東京カンテイの調査では、2020年マンションの年収倍率(住宅購入価格が年収の何倍に相当するかを比率で表したもの)が、全国平均で新築マンションは8.41倍、中古マンションが5.92倍となっています。特に最も倍率の高い東京都では新築マンションが13.4倍、中古マンションでも11.5倍という水準になっています。※5

図解1

住宅ローンの金利上昇も久々の高水準

こうした指標から住宅ローン金利が最低水準にあるとはいえ、以前よりも住宅の購入が難しくなってきていることは間違いありません。

一方、史上最低水準の金利が続き、ある意味住宅価格上昇を支えてきた住宅ローンも金利上昇の可能性が高まってきています。世界的な金利上昇や急速な円安の進行などから、金融正常化(金利引き上げ)の圧力がかかったため、2022年12月には日銀が金融政策を変更し、長期金利の目標上限を0.25%から0.5%に引き上げました。

これを受けて大手銀行が12月に発表した2023年1月の住宅ローン金利は、大手5行の平均基準金利(優遇前)で22年12月より0.24%高い3.70%となり、2013年8月以来、約9年半ぶりの高水準となっています。※6

2022年は物価上昇が家庭に襲い掛かった!!

さらに、物価上昇に対して賃金の上昇が追い付かず、家計の生活費負担は厳しくなってきています。総務省が発表した2020年を100とした2022年の消費者物価指数は104.7でおよそ4%上昇したため、2022年の現金給与総額は伸びたものの物価の上昇に追いつかず、実質賃金は2年ぶりにマイナスとなり、2022年1年間の労働者1人あたりの実質賃金は2021年に比べて0.9%減少しました。※7※8

図解2

このように住宅価格の上昇傾向が続く中、住宅ローン金利が上昇する可能性が懸念され、さらに物価上昇に賃金上昇が追い付かない状況では、高額な住宅ローンを組むことに不安があり、一般家庭では住宅購入に踏み切れないケースが増えてくると思われます。

賃貸需要はどうなるか

持ち家購入層が賃貸にシフトする可能性

当然ながら暮らしていくためには、生活の基盤である住宅は確保しなければなりません。住宅の購入が難しくなれば、必然的に賃貸需要が増える可能性が高いのではないかと考えられます。

ただ少子高齢化の傾向と人口減がはっきりしています。そのため、現在の状況が続くなら、今後住宅を購入できない人が増える分、持ち家世帯の比率が下がることで売買需要は減るかもしれませんが、賃貸需要の総量は横ばいとなる可能性があります。

また、不動産業のうち賃貸仲介業は一般の個人・法人にとっては最も身近な不動産の業態で、個人では学生や社会人になって生活の拠点をとなる住宅を探すのに利用してもらえる業態です。企業にとっても起業した当初は賃貸事務所や賃貸店舗から始めるのが一般的ですから、個人と同様に身近な業態と言えます。今後もこの不動産業の中で最も身近な業態であることは変わりません。

もし、前述したように住宅の購入が難しくなれば、これまで住宅を購入していたやや年齢の高い層も賃貸住宅を探すことになり、企業も人口減、少子高齢化の影響で業績が伸びない既存企業などは自社ビルを売却して賃貸に切り替えるなど賃貸需要が増えることも考えられます。

実は「生涯の平均引っ越し回数」は数十年変わっていない

現況を見ておくと、賃貸仲介業は、仲介の発生頻度が高ければ高いほど手数料収入が得られることになりますが、個人の引越しの頻度は統計的にそれほど変わっていません。

全国の全年齢の生涯平均引っ越し回数は、1996年が3.12回、2016年が3.04回という統計データがあり、それほど引っ越し回数は変わっていないことがわかります。※9

このデータでは購入して引っ越したのか賃貸住宅へ引っ越したのかわかりませんが、持ち家比率は1983年から2018年までのデータでもほぼ60%で変わっていないので、引っ越し回数が変わっていないということは賃貸住宅への引っ越し回数もほぼ変わっていないと言えます。※10

図解3

社会の変革期はチャンス

賃貸仲介業の今後は?

次に、少し視点を変えて賃貸仲介業の今後について考えてみましょう。

人口減や少子化に伴い賃貸需要減少の可能性は否定できないため、限られた需要を競合他社との競争で獲得していく必要があります。そのためには競合他社との差別化は必要で、特に現在のような社会の変革期に対応できなければ淘汰されてしまうのは、いつの時代もそしてどの業界も同じです。

昨今、IT(情報技術)をめぐる環境の変化は激しく、AI(人工知能)とVR(仮想現実)はインターネットが世界を変えたのと同程度の社会的インパクトを持つと言われています。

すでにインターネットが普及していた時代に生まれた、デジタルネイティブと呼ばれる世代であるZ世代への対応は不動産業界でも必要不可欠となってきています。特にZ世代は若い世代であり、賃貸仲介業は他の不動産の業態よりもZ世代への対応は急務といえます。

すでに解禁されている来店不要なIT重説はもとより、スマホやタブレット端末に対応した新たなサービスを提供していくことがポイントになります。賃貸仲介向けにはAIを使った物件探しのアプリなどは1つの例ですが、VRやメタバースなど仮想現実やAIを活用した先進的なIT活用はコストも相応にかかるため、新規販売(特にデベロッパーやハウスメーカー)や売買仲介での事例が先行しています。

図解4

例えば、仮想空間のモデルハウスやモデルルームを、VRを使って今までよりも細かいところまで確認できるといったものやAIを使った音声ガイダンスで物件案内を行うもの、AIによる物件の価格査定といったものがすでに登場しています。今後、賃貸仲介業においてもコスト次第では、物件の内見や案内はVRやAIを使ったものが登場する可能性は高いと思われます。

一方、今後は団塊世代のように恵まれず資産を持てなかった世代が高齢者となり、住宅購入できないまま賃貸需要層として増える傾向が予想されます。こうした世代はZ世代とは逆に先進的なIT化に対応できていない人も多いことが予想され、これまでと同じような対応が必要になります。

従って、今後はZ世代と単身の高齢者を含む高齢者世帯の両方を獲得するのを目指すのが理想かもしれませんが、経営資源(資金・人・時間)は限られますので、Z世代を取り込む方向へ舵を切り先進的なIT化を進めるか、IT化は作業効率程度に留め高齢者層を取り込んでいくかといった選択も必要になってくるかもしれません。

まとめ

住宅は生活の拠点であり、不動産業の中で賃貸仲介業は、開発による新築販売や売買仲介業と比べ、最も身近で人口減にあっても賃貸需要は売買ほど早く需要減少とならないように思われます。ただ、現在は数十年に一度の大きな社会変革期であるため、その対応をどうするかは課題と言えます。社会の変革期は、競合他社と差別化を図りやすい時期で、対応次第では今後の成長の機会であるとも言えます。

≪参照サイト≫

※1)内閣府 令和3年版高齢社会白書
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/html/zenbun/s1_1_1.html
※2)内閣府 平成16年版少子化社会
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g1110010.html
※3)総務省統計局 「統計Today No.146」
https://www.stat.go.jp/info/today/146.html
※4)国土交通省 プレスリリース令和5年1月31日付 不動産価格指
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001584492.pdf
※5)株式会社東京カンテイ「『年収倍率』から考察する日本の住宅課題」
https://magazine.zennichi.or.jp/commentary/8347
※6)日本経済新聞WEB版(2022年12月30日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB300WQ0Q2A231C2000000/
※7)総務省 報道資料「2020年基準消費者物価指数」(2023年1月20日)
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
※8)NHK NEWS WEB記事(2023年2月7日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230207/k10013972901000.html
※9)国立社会保障・人口問題研究所 2016 年社会保障・人口問題基本調査
第 8 回人口移動調査報告書
https://www.ipss.go.jp/ps-idou/j/migration/m08/ido8report.pdf
※10)総務省統計局 平成 30 年住宅・土地統計調査
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/kihon_gaiyou.pdf

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 by CHINTAI JOURNAL編集部 なかそね
数字でみると分かりやすい

数字でみると非常に分かりやすいです。
2022年は特に日本人にとって変化の多い1年だっただけに
「今後」を注視する方には必見ですね。