イケノウハウ

【数年でどう変わった?】賃貸仲介で存在感を増してきた働き方をも変える不動産テックとは?

記事公開日:2023/04/25

最終更新日:2023/04/23

尾嵜 豪

この記事を書いた人

株式会社ウィンドゲート代表取締役

株式会社ウィンドゲートを起業し、宅建業者として不動産の売買、賃貸、仲介、管理に携わる。建物の設計~建設~管理に至るまでのプロセスを含め、さまざまな不動産にまつわる業務をこなし豊富な実務経験を持つ。不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、ビル経営管理士、2級FP技能士として、多数のコラムに執筆、セミナーなども開催。特に不動産相続のプロとしての評価が高く、多くの相談を受け問題を解決している。

長らく不動産業界は、未だにFAXや書面による紙媒体による契約書を利用する「IT化が遅れた」業界だと言われていました。しかしこの数年の間で、特に賃貸仲介・管理業務においては法改正なども伴って変わっていこうとする強い流れがあり、徐々にではありますが、業務がIT化しつつあると感じています。

今後、賃貸仲介の働き方を変えてしまうであろう不動産テックについて、直近5年間の変化を追いつつ、不動産業界の今後を考えていきたいと思います。

直近5年間の動き

2017年からIT重説開始~2022年からは書面の電子化

不動産業界は、直近5年間で大きく変化しています。賃貸に関してはお客様の負担を軽減すべくアナログからデジタルへと進めるべく不動産テックが推進されるようになりました。2017年10月から賃貸物件におけるオンラインによる重要事項説明(IT重説)が開始され、2022年5月からは書面の電子化が法改正によって認められたという背景があります。

不動産業界では年配の方も多く小規模の会社が多い現状があります。そのため、対面での重要事項説明・契約書の締結が当たり前だった不動産業界にとって、業務をデジタル化することは時間がかかるだろうと考えていました。しかし、2020年から猛威を振るった新型コロナウイルスによって、不動産業界も急いでIT化を進めざるを得ない状況になったのです。

コロナによって業界のスタイルに変化も…

実際に、渋谷の駅前に路面店を構えていた筆者の会社においては2020年3月を期に、直接来店して賃貸物件を探すお客様は激減しました。それまでは週に数組、ふらっと立ち寄って物件を探したいというお客様がいたのですが、2020年4月~6月はほぼゼロになったのです。

その後、WEBで物件情報を探し、具体的な内見物件を電子メールやLINEでお客様に紹介し、現地にて待ち合わせして物件をお見せするという流れが当たり前になりました。

そのスタイルが定着すると、元には戻りません。コロナ禍がおさまってきた2023年春現在においても、直接来店するお客様は以前の5分の1以下になったといっても過言ではありません。一方で、契約及び重要事項説明に関しては、物件案内ほど劇的にデジタル化が進んでいません。

【IT重説】

不動産テックと聞いてまず思い浮かぶのはIT重説ではないでしょうか。遠方に住んでいて店舗に行けない・時間が合わないなどの問題を解消する方法として、2017年から賃貸物件の取引においてはIT重説が正式に可能となりました。実際に、遠隔地のお客様を中心に、オンラインで重要事項説明をする比率が増えています。

「IT」と言っても従来の重要事項説明と大きな違いはなく、まず相手のインターネット環境が整っているか、こちらと意思疎通できるかを確認し、宅建士証を提示したのち説明を開始します。

2017年にスタートした当初、IT重説は完全にデジタル化していたわけではなく、アナログがちぐはぐに混ざった状態でとても不便なものでした。そのため実際に活用する業者は少なかったのですが、2022年の書面の電子化に関する法改正によって、やっと実務に使えるものになってきたという印象です。

賃貸におけるIT重説の実施事業者割合は、社会実験時で4%、本格運用後(令和3年9月)で13%となっています。(※1)

【スマートロック】

スマートロックは、アプリなどを用いて遠隔から鍵の開閉を管理できるシステムで、賃貸の内見で便利なため、近年使う業者がとても増えてきています。あらかじめ物件にスマートロックを取り付けておくことによって、内見時の鍵の開閉・施錠状況を遠隔で確認することが可能です。

現在は現地にキーボックスを設置しておくことが主流ですが、どうしても鍵の閉め忘れや盗難・紛失などのリスクがつきまといます。実際に、内見が続いたときにカギが見つからないといったクレームが入ることがありました。

その点スマートロックを活用すれば、何時に鍵が開け閉めされたのか、きちんと施錠されているかをアプリやインターネット上で確認できるため、内見のたびに現地にチェックしに行くという業務が省けます。内見もWeb上で管理している場合、電話やFAXなどのやり取りをなくし、内見の申し込みから鍵の開閉・施錠確認まですべてオンラインで行うことが可能です。

スマートロックは2015年ごろから日本で発売されるようになりましたが、世帯普及率はまだ0.2%程度である一報、アメリカでは2020年現在で約15%です(※2)。世界のスマートロック市場は2030年に81億ドルに達する見込み(※3)であり、日本でも普及が見込まれています。

【電子契約】

いまだに主流ではありますが、賃貸借の契約を結ぶ際に作成する契約書は、紙で印刷して署名・捺印を行う必要がありました。

しかし、2022年5月の法改正により、必ず相手方の電磁的方法にて説明・契約を受けることの承諾を得た状態で「電磁的方法(PDFなどのデータを電子メールなどの方法を用いて相手に提供すること)」で書面の交付を行うことが可能になり、重要事項説明・契約の一連の作業をすべてオンライン上で完結させることができるようになりました。もちろん、相手方に十分なインターネット環境も必要です。

電子契約にはペーパーレス化・移動負担がないという点以外にも、契約書のセキュリティを強化できるというメリットがあります。電子署名には本人であることを証明する電子証明書を添付する必要があります。電子証明書によって、署名の本人性・第三者による改ざんがないことを証明できるため、法的効力を持ちます。

賃貸仲介の現場においては、IT重説は完全に定着したといえますが、電子契約はまだまだであると感じています。

本格的な電子契約はスタートしたばかりで、貸主のマインドがまだ紙媒体での契約書を交わすことにこだわる方が主流で、電子署名による契約はまだまだこれからといった印象です。お客様も紙での署名・捺印のほうが何となく安心するという方も多い状況です。

ただし、先述した通りセキュリティが強化されているので、電子契約も従来の契約書と同様の効力があり安心できます。なおかつペーパーレスで保管することが可能ですので、契約内容や退去時のルールなどを確認しやすくなります。

今後の見込み

業界のスリム化が進む見通し

電子契約が法的に担保された事によって、不動産テックはますます進化を遂げていくでしょう。物件の内見から重要事項説明・契約、その後の管理や募集においてもDX化が進み、FAXによる内見依頼書の送付や、対面での重要事項説明は減っていくでしょう。賃貸仲介業は必要な人手が少なくなり、業界のスリム化が進んでいくと考えています。将来的にはオフィスから内見や重説をおこない、顧客情報や入居状況をweb上で管理し、よりペーパーレス化が進み、データ管理が楽になっていくと思われます。

急速に浸透する不動産テック

しかし、すべての業務をオンライン上で行えるようにするには、お客様や仲介会社、貸主の方の理解とインターネット環境の整備が必須です。そのなかで貸主の理解を得る事が最も高い壁であると感じています。日本では貸主の多くが高齢の方であり、紙の契約書でないと信用できないと言われます。また、お客様が対面での説明を求める場合、そちらの意向に合わせる必要があります。重要事項説明によって契約に関するお客様の不安を取り除くことは、業務がDX化していようがいまいが関係なく、賃貸仲介が努めるべき業務の1つであり、不動産テックを活用して社内の業務効率を上げつつ、同時にお客様や貸主の満足度を高めていくことが、最大の目標であり目指すべき指標であると考えます。

なお、2019年度~2020年度における不動産テック市場規模は2019年度比約108%、2025年には2020年度比203.9%まで拡大する見込みとあります(※4)。

2017年からIT重説が可能となり、少しずつ需要が増加していたのが、2022年の法改正によって一気に需要増加しており、今後本格的になっていくと思われます。

まとめ

今回は、直近5年間の賃貸業界の動向を見つつ、賃貸業務が今後どのように変化していくかということについて意見を述べました。2022年の法改正によって電子契約が可能となり、一気に不動産業界のDX化が進むかと思いきや、仲介会社側で対応し切れていない場合や、対面での説明を求めるお客様そして紙での契約にこだわる貸主は多い状況です。

対面での重説や契約を希望するお客様は対面でのご案内が減る分、よりきちんと説明をするべきだと考えています。書面の電子化に対して便利だと思う方もいれば、現物がないと不安だと思う考え方もあるということを理解する必要があります。

不動産テックを導入して業務効率を上げていけば、印紙代等のコストや労働時間を大幅にカットできる可能性があります。そのぶんお客様や貸主への手厚いフォローや、新たな事業活路を開拓していくことが、今後の賃貸業者にとっての大きな課題となり得るのではないかと筆者は考えています。

参照:

※1:国土交通省「IT重説等の実施状況と今後の対応について」
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001463828.pdf

※2:Qrio株式会社
https://www.wantedly.com/companies/qrioinc/about

※3:Dream News「スマートロックの市場規模、2030年に81億3000万米ドル到達予測」
https://www.dreamnews.jp/press/0000264588/

※4:矢野経済研究所「不動産テック市場に関する調査を実施(2021年)」
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2770

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