記事公開日:2023/09/28
最終更新日:2023/09/28
不動産の仲介を行う場合には、宅地建物取引業法(第 34 条の 2 第 2 項)によって、「宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない」とされています。それゆえ、不動産の価格を求める時は、不動産流通推進センターが提供する価格査定マニュアルを使っている不動産会社も多いと思います。
しかし、賃料についてはこのようなマニュアルがありません。一体、どのように査定するのが正しいのでしょうか?明確な根拠を持って適正な賃料を査定することは、管理している賃貸物件の空室のリスクを軽減させることにつながり、大家さんの信頼を得るためにも重要なスキルと言えます。
そこで今回は賃料査定に役立つ情報を提供します。
不動産に関する賃料は、土地に関する賃料である「地代」と、建物に関する賃料である「家賃」に分けられます。
地代は土地を借りる場合の賃料であるので、値上げや値下げは土地価格とダイレクトに反映し、その必要諸経費は公租公課がほとんどなので、査定も単純ではあります。ただし、家賃に比べてインターネットなどでもなかなか相場情報が出回らず、新たな契約(新規地代)よりも、過去からの継続的な契約(継続地代)を改定する場合の相談のほうが多いという点もあり、家賃査定とは違う難しさがあります。
この地代も不動産会社が取り扱いますが、まずは地代と家賃は全然違うものということを押さえておきましょう。その上で、今回は仲介や管理業務の主流となる家賃に絞って、その査定方法を解説します。
オーナーの利益を確保しつつ、空室を発生させないようにするには、適正な賃料の査定が必要になります。そこで賃料査定の特徴や査定方法について解説します。
賃料査定と価格査定には以下のような違いがあります。
土地の価格は価格査定マニュアルがあり、取引された事例と査定したい土地の交通の便や環境条件の違いを評点で比較してPCに入力すれば、価格を算出できるようになっています。
しかし、賃料査定についてはオーソライズされたマニュアルがなく、それぞれの不動産会社が過去からのデータを基に属人的な判断で決定していることが多いと思います。従って同じ会社であっても、人によって査定される賃料に差があるという特徴があります。
土地や中古住宅の売買では、売主の希望に合わせて売り出し価格としてやや高めに設定し、売れたらよしとし、売れなかったら値下げをするという事例がよく見られます。
一方、家賃については、一度市場に出した賃料を安易に下げると、既存の契約者から不満が出るので、新築物件の賃料査定は十分な注意が必要です。
中古物件であれば、契約時期や賃借人の事情により、多少の差が出ることはありますが、それでも一つの部屋が大幅な値下げなどを行えば、全戸の賃料の値下げにつながりかねないので、価格の査定よりも慎重な査定が求められる可能性があります。
どのくらいで取引されているか(市場性)と、どのくらいコストをかけたか(費用性)は「価格」の重要な決定要因となりますが、賃料に関してはこの市場性のほうが強く作用します。
すなわち、費用をかけて外観をオシャレにしたり、ファミリー向けなのに単身者にニーズが高いような設備にわざわざお金をかけたりしても、賃料アップには貢献しないことが多いです。
土地は厳密にいうと同じものは2つもなく、住んだ場所やなじみがある土地が選ばれる地縁性がありますが、建物を借りる場合の選択肢は代替不動産が多く、機能性や利便性がより重視され、常に厳しい競争にさらされていることを認識しなくてはいけません。
賃貸借契約においては、家賃として契約され月ごとに払われるもの以外に共益費や駐車場などがありますが、契約内容によってはこれを家賃に含んだものもあります。
そして、賃料は契約(債権)であるため、契約期間が2年よりも5年なら割安にする、個人よりも法人なら割安にするなど、当事者の違いによって変わることがよくあります。従って相場の賃料を調べるには、その相場と考えられる賃貸借契約の内容を把握する必要があります。
賃料を査定する場合、以下の4つの項目が必要となります。
賃料査定においても価格査定と同様に、駅への接近性などの交通利便性、店舗や公園などへアクセスの良さを示す生活利便性、生活環境や供給処理施設の状態などを調べて、賃貸事例と比較してみます。
比較の仕方や比較する項目は土地の査定と大きくは変わらないです。
ただし、賃料の査定という特性から、例えば駅への接近性はワンルームなどではより強く賃料に影響します。その一方で、土地の価値の査定上で大事な要因となる住環境を守るための建築協定などは、賃料には影響ありません。
このように、価格査定と賃料査定では注目すべき要因が異なる点に注意しましょう。
立地環境の比較と同様に、建物設備においても賃貸事例との比較が必要となります。
ただし、その比較項目については多すぎず、少なすぎず、賃料に大きく影響するものをうまくピックアップする必要があります。
例えばシングルルームでは「バス・トイレ別」や「エアコンの有無」など需要が高い設備について(※)はしっかりとその有無と状態をチェックする必要があります。一方で「食器洗い機」や「ディスポーザー」はあれば便利ですが、一人暮らし向けの物件ではほぼニーズがないといえるでしょう。
この項目選びにあたっては、もちろん経験も大事ですが、査定しようとする物件との代替物件がどんな設備を「売り」として出しているかを参考にすることが大切です。加えて、自社の検索サイトでどんな設備がキーワード検索されているかを調べるなどして、データを注意深く集める必要があります。
賃料についても日々刻々と変動するため、契約時点がいつであるかを確認して比較する必要があります。特に2月ごろからは、4月からの新生活スタートに向けて賃貸需要が高まるので、場合によってはやや高めの賃料でも成約することがあります。
また、契約期間や一時金の有無及び退去時における現状復帰の程度で賃料に差がつく場合もあるので、これらも注意深く違いをチェックしましょう。
定期借家契約は普通の借家契約とは本質的に違うので比較の対象になりにくく、またオーナーの意向によって「女性限定」や「学生限定」の賃貸物件もあります。
これらの契約内容が特殊なものは、立地条件よりも、その契約内容の特殊性を重視して広域的に参考となる事例を探すべきです。ただし見つかったとしても駅への立地環境や建物の設備などが、査定したい物件とあまりにも違いすぎて比較ができないこともあります。その場合は、特殊な契約内容の賃貸物件がその周辺の物件と比較して何割ぐらい高い(または安い)のかを調べて、その割合を適用することで求めましょう。
この契約の特殊性は立地や設備の比較に隠れがちですが、欠かすことのできない重要な項目といえます。
査定対象となる不動産と、賃貸事例の建物設備や契約内容の詳細な違いを理解し、比較することの重要性を説明しましたが、正直手間がかかる大変な作業ではあります。
近年は不動産業務でも、ビックデータを用いたAI査定サービスを提供する会社が現われており、賃料の査定も簡単にできるようになりつつあります。従って、近い将来はこのような細々した作業は機械を利用したほうがよいという考えが主流になるのかもしれません。
しかし、いくらAIが査定してくれるにしても、膨大なデータから賃料に影響する要因を取捨選択すること、そして何より機械的に出された賃料を正しいかどうか、さまざまな角度から検証することは、相場を良く知り経験がある人間のほうがまだまだ優れていると思います。
また、賃料の面白いところは日々刻々と状況が変わる点です。例えば、駐車場施設などは依然として地方都市では必須の施設で、1室につき最低でも1台、ファミリー向けなら2台は確保したいところですが、都心ではどんどん使う人が少なくなり、機械式などではむしろその維持費が負担になっている傾向にあります。
そして、部屋の広さに関しても、コロナ禍によって在宅ワークが広がることで部屋の広さが求められていましたが、コロナ禍の収束とともに在宅ワークが定着せず、狭くてもやはり都心にあって立地が良い部屋のニーズが再び高まっているという指摘もあります。このように時代や状況に応じて波打つように変化していくため、蓄積したデータだけではニーズを読み切れないところが不動産の面白いところであります。
不動産の価格と同様、賃料も正解はありません。オーナーさんが納得できる賃料こそが正解であり、それを求めるためには機械に頼ることなく、やはりご自身で手間暇をかける必要がありそうです。
出典:
※一人暮らしのシングルに聞いた設備ランキングから物件仕様の需要を考察 | 不動産会社のミカタ (f-mikata.jp)
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