記事公開日:2023/04/03
最終更新日:2023/03/27
本企画は、賃貸仲介業の視点からざっくりと分かりやすく民法の各項目を解説する試みです。民法における「総則」とは、どのようなものなのでしょうか。今回は、民法総則とは一体どのようなもので、賃貸仲介業とどのような関係があるのかについて、解説していきます。
目次
民法は、大きく5つのジャンルで構成されています。「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」であり、記載されている順番もこのとおりです。
民法における「総則」とは、民法で定めていることすべてに対するルールのような存在といえます。どんなスポーツも、ルールを知らずにプレイできません。民法も同様で、総則を理解することが民法を理解するうえで非常に重要であり、欠かせない要素です。
民法総則で定められていることは、多岐にわたります。総則はさらに細かく7つの章に分かれており「通則」「人」「法人」「物」「法律行為」「期限の計算」「時効」と、テーマごとにルールが記載されているチュートリアルのようなイメージです。
すべて重要な論点であり、その中身に優劣はつけられませんが、今回は民法総則の中でも賃貸仲介業に関係のある「人」にまつわる部分にフォーカスを当てて解説していきます。
賃貸借契約の締結にあたって、どんな人であっても契約を進めてよいのか。
ある人の代わりに契約することは可能なのか。
騙されたり脅されたりして契約した場合にどうなるのか。
上記は賃貸仲介実務で悩むポイントですが、その答えは民法にあります。
賃貸仲介の仕事は、お部屋探しのお手伝いをすることにほかなりません。では、どのようなお客様であっても、賃貸借契約が締結できるのでしょうか?
結論、契約を締結できる能力を有する人でないと、賃貸借契約を締結できません。
この契約を締結すればどのようなお金がかかり、どのような義務が発生するのか、賃貸借契約の法律的な効果を理解していない人が契約をしたとします。思いもよらない不利益を被ることも考えられますし、契約の相手方に迷惑がかかることも想定されるでしょう。
そこで民法は、契約を締結できる行為の能力がない人たちを「制限行為能力者」として特別に保護しています。代表的な制限行為能力者の例を確認しましょう。
成年年齢に達していない未成年は制限行為能力者となり、一人で契約を行えません。
厳密には締結した賃貸借契約は有効ですが、ご両親が「やっぱりやめます」といわれてしまうと、契約はすべてなかったことになります。重要事項説明・決済金の入金・鍵渡しの前後などの時期は一切考慮されず、すべてなかったことになるのです。もらったお金があれば、返金しなければなりません。なお、この「やっぱりやめます」という宣言のことを「取消」といいます。
ただし、未成年者が結婚した場合は、一人で契約を行うことが可能です。余談ですが、未成年者が「私は20歳の大人です!」と嘘をついた場合、さすがに後で取消は行えません。
世の中には精神上の障害により、物事の理解が困難な方もいらっしゃいます。そういったハンディキャップを持つ方々を、通常の行為能力を有する人と同じようにみなすことを民法は許していません。
障害の程度により軽い順番に、被補助人⇒被保佐人⇒成年被後見人として、制限行為能力者として保護されます。
一部もしくはほとんどの法律行為に対して、第三者の同意や承諾が必要です。一人で契約した場合は、未成年者と同様に取り消せるので、契約を仲介する身としてはリスクが大きいといえるでしょう。
自分が何かしらの理由で対応できないので、代わりに誰かにお願いをすることやされることもよくあるでしょう。民法では、誰かの代わりに何かすることを「代理」といい、お願いする人のことを「委任者」、お願いされる人のことを「代理人」と呼びます。
代わりに内覧や契約手続きをすることは、民法上は可能です。ただし、きちんとした手続きを踏む必要があります。
代理人は、誰から何を依頼されているのか、相手方に伝えなければなりません。相手方に「私は何々に関する誰々の代理人だ」と伝えることを「顕名」といいます。顕名は口頭でも有効ですが、実務的には委任状という書面でもらっておいたほうがよいでしょう。一般的に委任状には、委任者と代理人双方の捺印がされており、どのような権限を委任するのかについて明記されています。
人を騙すことを「詐欺」、脅すことを「強迫」といいます。※「強迫」は民法上の用語であり「脅迫」は刑法上の用語です。
もしみなさんが詐欺や強迫によって契約してしまったときは、いつでもその契約を取り消せると民法は規定しています。
なお、必要なことを相手方に伝えなかったことも、詐欺と認定されることがあります。詐欺は口が上手い人の常套手段という印象がありますが、黙ることも詐欺なのです。お部屋のよいことも悪いことも、全部きちんとお話しすることを忘れないようにしましょう。
今回ご紹介したもの以外にも、民法総則ではたくさんのルールが規定されています。日数の数え方や時効に関することなど、基本でありながら奥の深いジャンルです。実務でも宅建試験でも、知らないでは済まされない部分といえます。興味を持っていただき、勉強のきっかけになれば幸いです。
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