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「法人契約と個人契約ってどう違うの?」必要書類から審査の流れまでわかりやすく解説

記事公開日:2025/06/19

最終更新日:2025/07/15

「法人契約と個人契約ってどう違うの?」「法人契約の税金面でのメリットを聞かれたけど上手く説明できなかった」

企業による従業員への住居サポートが重視される昨今、法人顧客への対応に課題を感じる賃貸営業職の方も多いのではないでしょうか。

法人契約と個人契約は、審査基準や必要書類、税務上の取り扱いが大きく異なるため、これらの違いを正確に理解することで、より質の高い提案が可能になります。

そこで本記事では、法人契約の基本的な仕組みから必要書類、手続きの具体的な流れまで、実務で直接役立つ知識を分かりやすく解説します。 明日からの営業活動で法人のお客様に自信を持って対応できるよう、ぜひ参考にしてください!

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賃貸の「法人契約」はなぜ必要?基本的な仕組みを押さえよう

まずは、法人契約の基本的な仕組みについて説明します。法人契約には特有の手続きや注意点があるため、しっかりと理解しておきましょう。

法人契約の基本的な仕組み

法人契約とは、個人ではなく企業や法人組織が契約の主体となって賃貸物件を借りる契約形態のことで、実際に住む人(入居者)と契約者(法人)が異なる点が大きな特徴です。

契約書の借主欄には「個人名」ではなく「会社名」が記載され、家賃の支払いも法人が行うのが一般的です。また、企業規模の大きい法人が契約主体となることで、個人では難しい与信審査をクリアしやすくなるというメリットもあります。

法人契約が活用される場面

法人契約は、企業が従業員の住居確保をサポートする目的で利用されます。具体的にどのような場面で活用されているのか、代表的な2つのケースを見ていきましょう。

転勤・長期出張での住居サポート

期間限定の転勤や長期出張の際に、会社が一時的な住居を確保するケースです。 この場合、転勤期間に合わせた契約期間の調整や、複数の従業員の入れ替わりに対応できる柔軟性が求められます。

全国展開している企業では、支店や営業所の近隣物件を法人契約で確保し、転勤者の住まいを確保するための制度として定着しています。

新卒採用での住居支援制度

また、地方から都市部に就職する新卒者向けの住居確保として、法人契約が活用されるケースもあります。 新卒者本人では審査が通りにくい場合でも、会社が契約することで安定した住居を提供できる点が強みです。

特に優秀な人材の確保競争が激化している業界では、住居支援制度の充実が採用戦略の重要な鍵となっています。企業側にとっても、社員が通勤しやすい立地に住居を確保することで、勤務環境の向上や離職率の低下につながるというメリットがあります。

このように、法人契約は企業の「人事戦略」や「業務効率化」といった様々な目的のもと活用される契約形態となっています。

個人契約と法人契約の主な違い

個人契約と法人契約では、契約手続きの各段階において大きな違いがあります。審査で重視される項目から必要書類、初期費用の設定までそれぞれ異なる特徴を持っているため、お客様に適切な提案ができるようしっかりと理解しておきましょう。

1. 審査基準の違い

個人契約では契約者本人の年収や勤続年数、信用情報が重視されます。 一方、法人契約では会社の事業年数や従業員数、資本金、売上高などの企業情報が主な審査対象となります。

法人契約では社会的信用の高さが評価される一方で、設立間もない企業や小規模法人については、個人契約よりも厳しい審査基準が設けられることもあります。

2. 必要書類の違い

個人契約では身分証明書や収入証明書、住民票があれば十分なケースが多いですが、法人契約では登記簿謄本や決算書、法人税確定申告書等、多くの企業関連書類が必要になります。

書類によっては発行に数日を要する場合があるため、手続き全体のスケジュールを見据えた案件管理が重要です。

必要書類についての詳細は、後述の「法人契約の必要書類」をご参照ください。

3. 初期費用の違い

法人契約では敷金が個人契約よりも高く設定されることがあります。 これは不特定多数の人が利用する可能性があることや、使用頻度が高いことを考慮してのものです。

一般的に個人契約の敷金は家賃の1〜2ヶ月分程度ですが、法人契約ではそれ以上を求められる場合もあります。

法人契約手続きの具体的な流れ

法人契約の手続きは個人契約と比較して複雑になるため、手続きの流れを事前に把握しておきましょう。実務上の注意点についても併せてご確認ください!

1. 総務部や人事部への相談・確認

法人契約では、まず企業の総務部や人事部への相談から始まります。

会社の社宅規定や家賃補助制度の詳細、予算の上限額などを事前に確認することが重要です。間取りや築年数、構造に関して制限を設ける企業もあるため、物件探しを始める前に必ず詳細な条件をヒアリングしましょう。

なお、総務部や人事部の担当者は複数の案件を同時に抱えていることが多いため、連絡時には「○○様の転勤に伴う社宅の件」といったように、案件の詳細(入居者名、転勤先)について明記するのがポイントです。

2. 物件選定・内見

続いて、条件に該当する物件のリストアップと提案を行います。法人契約では、初期費用を経費として計上できるため、個人では負担が重い物件も選択肢に入れやすいという側面があります。

該当する物件が見つからない場合は、担当者と条件の優先順位を再確認し、譲歩できる部分がないか相談することが重要です。その際、「ご希望の条件での物件が少ないため、家賃の上限を月額1万円程度引き上げていただくか、勤務先までの距離を1km程度延ばしていただけると、選択肢が大幅に広がります」といったように、具体的な代替案を提示するとよいでしょう。

物件の内見については、「企業の担当者」または「入居予定の社員本人」が行うケースがあり、それぞれ異なる対応が求められます。

企業担当者の場合は、業務時間内である平日の日中に対応するケースが多いですが、入居予定者本人の場合は、現在の勤務状況をふまえた上で柔軟な時間調整が必要です。土日や夕方以降の限られた時間でしか内見に来られないというお客様も多いため、効率的に現地案内をできる体制を整えておきましょう。

なお、自宅兼事務所として利用する場合等、物件によってはインターネット上への住所公開が制限されているケースがあります。そのため、事業用途での契約を考えているお客様に対応する際は、物件提案の時点でオーナーの意向を確認しておくことをおすすめします。

3. 申込・審査

物件の選定後は、入居申込と審査の段階に入ります。法人契約では、入居者個人ではなく企業の信用力が審査の中心となるため、審査項目も個人契約とは大きく異なります。

審査に必要な書類は会社の規模や経営状況等によって変わるため、案件ごとに確認しておきましょう。

なお、法人契約の入居審査は必要書類が多く確認事項も増えるため、個人契約より長引く傾向にあります。審査期間の目安は通常数日〜1週間程で、書類に不備がある場合や追加資料の提出を求められた場合は、さらに延びることもあります。

4. 賃貸借契約

審査通過後は、賃貸借契約の締結へと進みます。

契約書の借主欄には企業名が記載され、法人印による押印が必要になります。また、企業の信用度や管理会社の方針によっては印鑑証明書の提出を求められる場合もあります。

個人契約では契約時に来店して手続きを行うことが多いですが、法人契約の場合は契約書を郵送して手続きを進めるのが一般的です。これは、法人印を社外へ持ち出すことが禁止されているケースが多いためです。

企業側での手続きや郵送での書類のやり取りにかかる期間も考慮した上で、余裕を持ったスケジュール調整を心がけましょう。

5. 鍵の引き渡し・入居

鍵は入居者に引き渡すのが一般的ですが、借り上げ社宅等では企業の担当者を相手に行うケースもあります。また、鍵の受領書に「入居者の捺印」が必要となる場合も多いです。営業担当者として、鍵の引き渡しや受領書への捺印の要否を含めた手続きの流れについて、事前に確認しておきましょう。

また、入居後の継続的なアフターフォローも重要です。法人契約では契約更新や退去の調整時に、企業の担当部署と密に連絡を取りながら手続きを進めていかなければなりません。

法人契約は企業との長期的な関係を築く大きなチャンスでもあるため、スムーズな対応と柔軟なサポートを心がけ、着実に信頼を積み重ねていきましょう。

法人契約の必要書類

法人契約では、個人契約よりも多くの書類が必要になります。企業の担当者は書類準備に慣れていますが、より適切なサポートができるよう、営業担当者としてもしっかり把握しておきましょう。

法人側で準備する必要書類一覧

法人契約で必要とされる主な書類は、以下の通りです。

主な必要書類

・履歴事項全部証明書(法人登記簿謄本)
・決算報告書の写し
・法人の印鑑証明書
・会社案内・パンフレット等(HPの会社概要部分の印刷でも可)
・法人税納税証明書
・事業計画書

ただし、これらの書類は会社の規模や経営状況、設立からの年数によって要否が変わるため、オーナーの意向をふまえた柔軟な対応が求められます。

入居者個人が用意する必要書類一覧

法人契約でも、実際に住む入居者個人の書類が必要になります。

主な必要書類

・身分証明書
・住民票(入居する家族全員が載ったもの)
・社員証の写し

なお、入居者個人の書類についても会社の規模や雇用形態によって追加書類を求められる場合があるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

賃貸仲介営業の現場でよくある質問と回答

賃貸仲介の営業現場では、法人契約について様々な疑問や質問が寄せられます。よくある質問と回答について詳しくまとめましたので、参考にしてください。

Q1. 個人事業主でも法人契約はできますか?

A. 個人事業主は法人格を持たないため、正式な法人契約を結ぶことはできません。

個人事業主が利用できる契約形態は、「個人契約」と「個人事業用契約」の2種類です。個人契約は一般的な住居用の契約で、個人事業用契約は事業目的での利用を想定した契約形態になります。

なお、個人事業用契約では自宅兼事務所として利用可能なため、固定費の削減につながる点が大きなメリットです。

ただし、事業用契約では確定申告書類や課税証明書、事業概要をまとめた資料等の提出が求められ、審査の日数も長くなりやすいという特徴があります。事業内容によっては物件選択に制限がかかる場合もあるため、事前の確認が重要です。

Q2. 法人契約の審査時に重視されるポイントは?

A. 法人契約の審査では、「企業の財務健全性」が重要な判断材料となります。

具体的には、直近3期分の決算書における売上推移と利益率の安定性、そして銀行借入金の状況が重点的にチェックされます。

赤字が続いている企業や売上が大幅に減少している場合は審査に不利となる可能性がありますが、事業拡大のための適正な借入については問題視されません。

また、事業年数や従業員数、資本金なども総合的に考慮されるものの、明確な基準値は設けられておらず、総合的な経営状況をふまえて判断されます。

Q3. 連帯保証人や保証会社への加入は必要?

A. 法人契約でも、連帯保証人の設定や保証会社への加入が求められる場合があります。

特に設立間もない企業や決算内容に不安要素がある企業では、代表者が個人で連帯保証人になるケースが一般的です。

また、創業して間もない企業や事業拡大期にある企業などでは、連帯保証人の設定に加えて賃貸保証会社への加入が求められることもあります。一方、大手法人(上場企業など)の場合は、企業の信用力が高く評価されるため、連帯保証人・保証会社ともに不要になることが多いです。

Q4. 法人契約で経費計上できる項目はありますか?

A. 法人が賃貸物件を契約する際、適正な手続きを踏むことで以下のような費用を経費として処理できます。

・礼金
・仲介手数料
・引越し費用
・保証料
・更新料
・火災保険料
・原状回復費用

ただし、敷金については将来的に返還される性質を持つため、支出時には資産として計上されます。その上で、実際には返還されなかった部分に関しては経費処理が可能です。

20万円以上の礼金や賃貸保証料、更新料については支出年度に全額を経費計上するのではなく、「繰延資産」として契約期間にわたって償却処理する必要がある、という点に注意しましょう。

なお、社宅契約の場合は、従業員から適正な家賃負担を受けることで差額部分を「福利厚生費」として経費計上できるという利点があります。

このように、各費用の性質と金額に応じて、取り扱い方が異なります。法人の税務処理については税理士に依頼するのが一般的ですが、営業担当者として基本的な性質を理解しておくと、お客様により的確な提案ができるため信頼獲得にもつながります。

Q5. 社宅用途で法人契約を結ぶ際に注意すべきポイントはありますか?

A. 社宅用途では、通常の法人契約と比べて確認すべきポイントが増えてきます

まず重要なのが契約形態で、転勤者の入れ替わりを想定して「人員変更を認める条項」を設ける点です。

また、契約期間に柔軟性を持たせるため「定期借家契約」ではなく「普通借家契約」での締結が推奨されます。さらに、税務面では法人名義での契約が社宅制度の前提条件となるほか、従業員からの家賃徴収額を「賃貸料相当額の50%以上」に設定する必要があります。

契約手続きは企業の総務部門が行い、郵送による契約手続きを取ることが多いため、余裕を持ったスケジュール調整を心がけましょう。

法人顧客への提案力を高めて競合との差別化を図ろう

法人契約は、個人契約とは大きく異なる特徴を持つ契約形態です。 審査基準では会社の事業年数・従業員数・資本金・売上等の企業情報が重視され、必要書類も登記簿謄本や決算書など多岐にわたります。 

これらの複雑な仕組みを正確に理解し、お客様に分かりやすく説明できることが法人営業において競合との差別化につながります。

法人のお客様は個人のお客様よりも契約単価が高く、継続的な取引につながる可能性も高い貴重な顧客です。 本記事で解説した知識を活用して、法人のお客様により質の高いサービスを提供し、長期的な関係構築につなげていきましょう!

泉 正孝

この記事を書いた人

ウェブスタジオイズミ代表。宅地建物取引士・マンション管理士・管理業務主任者・相続マイスター。東京都在住。大学卒業後、電鉄系総合不動産会社に入社し、不動産仲介事業部に所属。

不動産業界歴10年以上、ライター歴7年以上、サイト運営歴9年以上の経験を活かし、ライター兼ディレクター、SEOコンサルタントとして活動中。「住宅ローン・相続・税金・保険・資産運用」など、実体験に基づく記事を1900本以上執筆。SEO上位獲得多数。専門家として1次情報とエビデンスを重視し、読者目線の執筆を心がけている。

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