最終更新日:2026/01/21
記事公開日:2026/01/22
退去時のトラブルで特に多いのが、「原状回復に関する費用負担」の問題です。
長年、貸主と借主の間で解釈が分かれやすかったこの問題ですが、2020年の民法改正により原状回復のルールが法律で定められ、改善が進んできています。
とはいえ、実際の現場では「どこまでが通常損耗なのか」「お客様にどう伝えれば納得してもらえるのか」など、判断や説明に迷うケースも少なくありません。
本記事では、原状回復の基本ルールや敷金精算時の注意点について、わかりやすく解説します。実務に直結する内容となっていますので、退去対応をしっかりとこなせるようになりたい方は、ぜひご覧ください!
▼氏名
泉 正孝
▼プロフィール
ウェブスタジオイズミ代表。
宅地建物取引士・マンション管理士・管理業務主任者・相続マイスター。東京都在住。大学卒業後、電鉄系総合不動産会社に入社し、不動産仲介事業部に所属。
不動産業界歴10年以上、ライター歴7年以上、サイト運営歴9年以上の経験を活かし、ライター兼ディレクター、SEOコンサルタントとして活動中。「住宅ローン・相続・税金・保険・資産運用」など、実体験に基づく記事を1900本以上執筆。SEO上位獲得多数。専門家として1次情報とエビデンスを重視し、読者目線の執筆を心がけている。
目次

退去対応の第一歩は、原状回復に関する基本ルールを押さえることです。
2020年4月の民法改正では、原状回復における賃借人の負担範囲が明確化されました(民法621条)。具体的には「通常の使用による損耗や経年変化は、賃借人の原状回復義務に含まれない」と法律で明記され、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方に法的な裏付けが与えられた形です。
営業担当者として公平・公正に対応できるよう、原状回復費用の負担区分の考え方や、敷金精算時に注意すべきポイントをしっかりと整理しておきましょう。
原状回復という言葉には、「借りた当時の状態に戻す」というイメージを持たれがちです。
しかし、国土交通省のガイドラインでは、「通常の使用による損耗や経年変化は借主の負担としない」という考え方が示されています。
つまり、時間の経過によって自然に発生する汚れや傷みは、借主の責任ではないというのが基本的な考え方です。
原状回復とは、あくまで「借主の故意・過失などで通常の使い方から外れて発生した損傷を修復すること」を意味します。
営業担当者として公平・公正に対応できるよう、こうした「原状回復の基本」についてきちんと整理しておきましょう。
なお、国土交通省のガイドラインのほか、一部の自治体では独自のルールを設けている場合もあります。たとえば、東京都は条例(東京ルール)に基づき、不動産業者に対して原状回復に関する説明義務などを定めています。
このように、独自の対応が求められることもあるため、担当エリアのルールも事前に確認しておくと安心です。
ガイドラインでは、原状回復に関して「どちらの負担になるか」の具体例が数多く示されています。
このとき、判断の決め手となるのが、「通常損耗」か「過失損傷」かという基準です。
たとえば、冷蔵庫の設置跡やカレンダーを長期間貼っていたことによる壁紙の変色などは「通常使用の範囲」とみなされ、「貸主の負担」となります。
一方で、引っ越し時に壁を大きく傷つけてしまった、タバコのヤニで壁紙が著しく汚損したといった場合は、「借主の過失」と判断される可能性が高くなります。
判断に迷ったときは、「時間の経過で自然に発生したものかどうか」という視点がポイントです。
現場での説明では、こうした線引きの考え方をベースに、「なぜ借主負担になるのか」を丁寧に伝えると、納得してもらいやすくなります。
なお、負担区分の判断基準については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に掲載されています。壁・床・設備など、箇所ごとの具体的な事例も紹介されていますので、参考にしてみてください。
原状回復の費用は、敷金から差し引かれることが一般的です。だからこそ、見積書や明細の内容があいまいだと「納得できない」「説明が不十分」とトラブルを招くことがあります。
精算時には、どの項目が誰の負担なのかを明確に分け、説明の根拠を示すことが大切です。
また、クリーニング費用や鍵交換費用などは、契約書に特約として記載されているかどうかも確認しておきましょう。
ただし、特約が有効となるには「内容が合理的であること」「借主が十分に理解・納得していること」などの要件を満たす必要があります。営業担当者としては、特約の内容を事前にしっかり確認するのはもちろん、「なぜその費用が必要なのか」という合理性についても説明できるようにしておくことが大切です。

原状回復のルールを押さえたところで、次は実際の現場での動きを確認していきましょう。
退去立ち合いは、お客様との最後の接点となる重要な場面です。当日の流れやチェックポイントをあらかじめ整理しておくことで、対応がスムーズになり、お客様に気持ちよく退去してもらえます。
室内の状況確認は、原状回復の判断に大きく関わります。次のようなポイントを中心に、お客様と一緒に室内の状況を丁寧に確認していきましょう。
・壁や床の傷や汚れ
・畳・ふすま・障子・網戸の破損や汚れ
・室内設備(エアコンや温水洗浄便座など)の作動確認
・水回りのカビ・水垢
・コンロや換気扇の油汚れ
・室内の匂い
エアコンや温水洗浄便座などの設備類は、実際にスイッチを入れて動作確認を行いましょう。リモコンの有無や作動状況も記録に残しておくと、後日のトラブル予防になります。
チェックが完了したら、退去立ち合いに関する書類へサインをもらい、現地対応の記録をしっかり残しておくと安心です。
室内の状況確認と同時進行で、「お部屋に残された物はないか」も丁寧にチェックしていきます。とくに見落としやすいのが、収納の奥やベランダ、室外機の裏、洗濯機置き場の隙間などです。
「ベランダに物干し竿やプランターが残っていないか」「室内に冷蔵庫の下敷きマットなどがないか」など、日常では気づきにくい部分もしっかり確認します。
「もし残置物があった場合は、処分費用が発生する可能性がある」ことをやんわり伝え、その後のトラブルを防ぎましょう。
意外と多いのが、「電気を止め忘れて、基本料金が発生した」「水道が閉まりきれておらず、漏水トラブルが生じた」といったケースです。
お客様に対しては、「すでに電気・水道・ガスの停止の手続きはお済みでしょうか?」と一言確認しましょう。
未手続きであれば「こちらの連絡先にお電話いただくとスムーズです」と、電話番号をメモでお渡しすると喜ばれます。
退去後の敷金精算や郵送書類のやり取りに備え、新住所や携帯番号、メールアドレスなどを確認しておきましょう。
とくに引越し直後は連絡が取りづらくなることもあるため、「敷金の返金について書類を送る際に必要となりますので、念のためこちらにご記入いただけますか」と、理由を添えてお願いするとスムーズです。
また、退去理由のヒアリングは、物件改善やオーナー提案にもつながる貴重な情報です。
「ちなみに今回のご退去、何かきっかけがあったんでしょうか?」「次のお住まいは同じ沿線ですか?」と、柔らかいトーンで質問すると、本音が聞き出せることもあります。
鍵は、玄関の本鍵・合鍵・ポスト・宅配ボックスなど、すべてそろっているか確認します。
「スペアキーなど、他にもお持ちの鍵はございませんか?」と念押ししておくと、後日追加返却になるケースを減らせます。
最後に、部屋を出る際はブレーカーのスイッチを忘れずに落としておきましょう。
退出時に電気が流れたままになっていると、基本料金が発生したり、漏電などのトラブルにつながる恐れがあります。

退去立ち合いが終わったあとも、原状回復の見積もりや敷金精算など、大切な業務が続きます。
お客様に「最後まで誠実だった」と感じてもらえるよう、立ち合い後のステップもしっかりと押さえておきましょう。
退去後は、室内の写真やチェックシートの記録をもとに、原状回復にかかる費用を見積もります。
このとき大切なのは、「貸主負担」と「借主負担」を見積もり段階で明確に区分しておくことです。
前述のとおり、ガイドラインの基準に沿って、通常損耗(日焼けによるクロスの色あせ、家具の設置跡など)は貸主負担、過失損傷(引っ越し時の壁の傷、飲み物をこぼした畳のシミなど)は借主負担として整理していきます。
なお、費用負担の範囲についても押さえておきましょう。たとえば、壁の一部に傷や汚れをつけてしまった場合、原則として借主負担となるのは「損傷した部分」のみです。
しかし実際は、損傷箇所だけを部分補修すると色や柄が合わず、見た目の統一感が損なわれてしまいます。そのため、ガイドラインでは「損傷箇所を含む壁一面分までは借主負担としてもやむをえない」とされています。

出典:国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
ただし、壁一面分を請求する場合でも、クロスの経年劣化(耐用年数6年)を考慮し、入居期間に応じた残存価値を差し引く必要があります。たとえば入居3年であれば、残存価値は約50%となり、その分を減額した金額が借主負担です。
このように、「適切な施工範囲」と「経年劣化」の両方を考慮して費用を算定しなければなりません。
見積もりが確定したら、敷金から差し引く費用と返金額を明記した「精算明細書」を作成します。
特に注意したいのが、「何にいくらかかったのか」という内訳の透明性です。
たとえば「クリーニング費用一式 22,000円」だけではなく、「エアコン洗浄 8,800円」「浴室清掃 13,200円」など、できる限り細かく項目分けして記載しましょう。
また、契約時に「クリーニング費用は一律で発生する」といった特約がある場合は、明細書にも「契約特約に基づく請求である」旨を記載しておくと、後々のトラブル予防になります。
もしも費用が敷金を上回るような場合には、事前にお客様へ電話やメールで説明し、納得のうえで追加請求に進むのが原則です。過度な請求とならないよう、見積もり内容の妥当性も改めて確認しましょう。
返金額と振込口座が確定したら、期日までに敷金の返金処理を行います。
このとき、「いつ(返済時期)」「いくら(返済額)」「どこ(振込先)」に返金されるのかを、明細書と合わせて文書で案内しておくと、お客様の不安を軽減できます。
返金日が遅れる場合や、書類の再提出が必要になった場合などは、必ず事前に連絡を入れましょう。
とくに転居後のお客様は不在がちになるため、連絡が取りにくいことも考慮し、「この書類がそろってから○営業日以内に振込予定です」といった目安を伝えておくと、トラブルの芽を摘むことができます。
退去時の原状回復や敷金精算は、お客様にとって「最後の印象」を左右する重要な対応です。ルールを正しく理解していないと、思わぬトラブルに発展したり、説明の不備から不信感を抱かれたりすることもあります。
そのため、ガイドラインに沿った判断基準をあらかじめ整理し、現場では「何を」「どのような根拠で」説明するかを意識しておくことが大切です。
また、立ち合い当日や精算後の業務でも、誠実で丁寧な接客が信頼につながります。
本記事で紹介したルールの整理や確認項目、説明トーク例などを参考に、明日からの退去対応に自信を持って臨んでください。
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