最終更新日:2025/10/23
記事公開日:2025/07/28
「サイバー攻撃って大手企業が狙われるものでしょ?」「セキュリティソフトを導入しているから大丈夫」そんな風に思っていませんか?
サイバー攻撃は、決して他人事ではありません。不動産営業の現場では、お客様の氏名や住所、勤務先・年収など、サイバー攻撃の標的になりやすい情報を日常的に取り扱っているため、「うちは大丈夫」という楽観視は非常に危険です。
本記事では、実際に発生した不動産会社への攻撃事例から、営業現場で実践できる具体的な対策まで、実務に役立つ情報をわかりやすくお届けします。お客様の大切な情報を守るため、閑散期の今こそセキュリティ体制を見直しましょう!

目次
不動産会社が狙われやすい背景には、業界特有の構造的な問題があります。まずは「なぜ狙われやすいのか」を理解し、サイバー攻撃へのリスク意識を高めていきましょう!
不動産業界では、今なお紙ベースの業務が根強く残っています。アドビが2022年に実施した調査によると、不動産業における契約の73.3%が紙で行われており、これは他業界と比較しても際立って高い割合です。
この結果からも、不動産業界は他分野に比べてデジタル化で遅れをとっていることがわかります。
参考:Adobe「アドビ、業界別『営業業務のデジタル化状況』を調査 デジタル化が進んでいない業務 1 位は『取引先との契約書締結』」
一方で、近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が高まり、業務のオンライン化を進める動きも見られます。しかし、業務のオンライン化ばかりが先行し、セキュリティ対策の整備や従業員のITリテラシー向上が追いついていないケースも少なくありません。
つまり、デジタル化でオンライン上のやり取りが増えたものの、それを守る備えが十分でない状況が生まれているのです。
不動産営業では、物件の案内や打ち合わせなど、社外での活動が日常的に発生します。そのため、顧客情報が保存されたノートPCやタブレットを外出先で使用することも珍しくありません。
しかし、カフェや商業施設、駅などでの作業は、公共Wi-Fiを通じた情報の盗み取り、移動中の端末紛失や盗難、画面覗き見など、様々なリスクにさらされています。社内のような管理されたネットワーク環境とは異なり、セキュリティ面での保護が十分に働かない環境での業務となってしまうのです。
不動産会社は、管理会社や建設会社、設備業者、金融機関など、様々な外部業者とやり取りをしています。取引先が多いほど攻撃者にとって侵入できる経路も増えるため、「サプライチェーン攻撃」の標的になりやすくなります。
サプライチェーン攻撃とは、取引先や関連会社のセキュリティの弱点を突いて、本来の標的企業に侵入する手法です。攻撃者は「業者からの緊急連絡」や「金融機関からの書類確認依頼」などを装って偽のファイルを送り込み、社内に不正アクセスします。
このように、取引先との連携が多い会社ほど、連鎖的に被害に巻き込まれるリスクも高くなります。
サイバー攻撃による被害は、単なるシステムトラブルにとどまらず、会社の運営全体に深刻な影響を及ぼします。とくに顧客の個人情報を日常的に取り扱う不動産業では、以下のようなリスクに注意が必要です。
・通常業務が停止する
・法的対応に時間とコストがかかる
・信頼や評判が損なわれる
それぞれの影響について、詳しく見ていきましょう。
サイバー攻撃による最も深刻な影響は、業務の完全停止です。
出典:トレンドマイクロ(JP)「セキュリティ成熟度と被害の実態調査 2024」
トレンドマイクロ株式会社が2024年に実施した調査によると、過去3年間で最も対応コストが大きかったサイバー攻撃からの復旧に要した時間は平均6.1日でした。
さらに、最も対応コストが大きかったサイバー攻撃がランサムウェア攻撃だった場合には、復旧期間は平均10.2日にも及びます。つまり、1週間以上もの間、通常業務が行えない状況に陥る可能性が高いのです。
不動産営業の現場では、この業務停止が特に深刻な問題となります。物件情報システムにアクセスできなければ、お客様への物件紹介ができません。さらに契約管理システムが停止した場合、進行中の取引が滞り、決済予定も延期になってしまうなど、営業活動そのものが成り立たなくなってしまいます。
2022年4月に施行された改正個人情報保護法により、情報漏洩が発生した際の対応義務が大幅に強化されました。
これまで努力義務とされていた「個人情報保護委員会への報告」や「本人への通知」についても、以下のいずれかの条件に該当する場合は「法的な義務」が求められるようになっています。
・要配慮個人情報(健康状態や障がいに関する情報など)の漏洩
・クレジットカード情報など、財産的被害につながる恐れのある漏洩
・不正な目的で第三者に悪用される恐れの漏洩
・1,000件を超える漏洩
参考:個人情報保護委員会「漏えい等報告・本人への通知の義務化について」
個人情報保護委員会の措置命令に違反するなど適切な対応を怠った場合は、会社に対して最大1億円の罰金が科される可能性があります。さらに、弁護士への相談費用や調査費用、お客様への対応費用なども必要になるため、特に中小規模の不動産会社にとっては経営を圧迫する大きな負担となるでしょう。
不動産仲介は、お客様に大切な個人情報を預けていただく仕事です。サイバー攻撃による情報漏洩が発生すると、この信頼関係が大きく損なわれることになります。
「個人情報を適切に管理できない会社」というイメージが定着した場合、新規顧客の獲得や媒介契約の締結が困難になります。さらには、優秀なスタッフが離職したり新規採用が困難になったりするなど、人材確保においても深刻な問題です。
地域密着で事業を展開している会社ほど、評判の回復に時間がかかる傾向にあります。そのため、小さなミスであっても早期対応や情報開示を徹底するなど、信頼低下による影響を最小限に抑えることが重要です。
実際にサイバー攻撃が起きたとき、現場ではどのような混乱が生じるのでしょうか。ここでは、営業活動や顧客対応に大きな影響を及ぼした「不動産会社のサイバー攻撃事例」を3つ紹介します。
2024年5月、大手ハウスメーカーが運営する会員向けサイトがサイバー攻撃を受け、29万人分の顧客・従業員情報が流出しました。
原因は、すでに使われていなかったフォトギャラリー機能にセキュリティの不備が残っていたことです。攻撃者はこの脆弱性を突き、メールアドレスやログイン情報などを外部に流出させたとされています。
同社はサイトの運営を停止しましたが、個人情報保護委員会と警察への報告、顧客への連絡や専用窓口の設置など対応に追われました。
一見使われていないWebページや機能でも、インターネット上に公開されている限り、攻撃対象となる可能性があります。定期的なシステムチェックや古い機能の削除は、意外と見落とされがちなセキュリティ対策のひとつです。
2024年10月、九州を拠点とする不動産会社がランサムウェア攻撃を受け、サーバーが使用できなくなる被害が発生しました。攻撃者によって、個人情報を含むデータが複製・外部流出した可能性があり、画面には「金銭を支払わないとデータを第三者へ売却する」という脅迫文も表示されました。
個人情報の流出は確認されなかったものの、一時的な業務停止や信頼低下による影響は避けられませんでした。
ランサムウェアとは、システムを使用不可にして身代金を要求する不正プログラムです。「金銭を支払わない場合はデータを売却・公開する」といった脅迫により、攻撃された会社は大きなプレッシャーにさらされます。
たとえ個人情報の実際の流出が確認されなくても、お客様や取引先に対する説明責任が生じるため、企業にとって大きな負担となります。
2025年3月、名古屋の不動産会社が運営する物件情報サイトのサーバーがランサムウェア攻撃を受け、システム内のデータが暗号化される被害が発生。同社は警察署および個人情報保護委員会に状況を報告し、外部の専門家とも連携しながら復旧作業にあたりました。
個人情報の流出は確認されませんでしたが、再発防止に向けた体制強化が求められるケースとなりました。
サーバー内のファイルが暗号化されるといった深刻な被害では、自社だけでの対応が難しいため、外部機関との連携が不可欠となります。
専門的な調査や復旧作業には相当な費用がかかるため、中小規模の不動産会社にとっては経営面への影響も深刻な問題となるでしょう。
サイバー攻撃は日々巧妙になってきており、「これをしておけば絶対に安心」という万能策はありません。とはいえ、あらかじめ備えておくことで被害の拡大を防ぎ、業務への影響を抑えることができます。
この章では、不動産会社が明日から実践できる5つのセキュリティ対策について見ていきましょう!
日々の業務で使用するパスワードは、外部からの侵入を防ぐ最初の防壁です。英字(大文字・小文字)や数字、記号を組み合わせた十分な長さのパスワードを設定しましょう。
社名や社用メールのドメイン名などをパスワードに使用している会社もありますが、外部から推測しやすいため非常に危険です。また、同じパスワードの使い回しは避け、定期的に変更するルールを設けるといった対策も有効です。
業務に使用するパソコンやタブレットには、信頼性のあるセキュリティソフトを導入し、常に最新の状態に保つようにしましょう。
また、外部ストレージ(USBメモリや外付けハードディスクなど)の使用についても、社内で一定のルールを設けておくことが大切です。たとえば、「社外への持ち出しには事前申請を必須とする」「業務に不要な機器の接続は禁止する」といったガイドラインを整備し、データの持ち出しや接続を最小限にとどめる工夫が求められます。
さらに、私物のパソコンやスマートフォンを業務で使う場合は、「会社が承認したアプリのみ使用を許可する」「Wi-Fiは暗号化された安全なネットワークのみ利用を許可する」など、セキュリティ基準を明確に定めておきましょう。こうしたルールは、従業員全体の共通認識として持っておくことが重要です。
サイバー攻撃は、高度なハッキング技術によるものばかりではなく、日々の業務の中に潜む小さな油断から生じることがあります。たとえば、不審なメールをうっかり開いてしまい、添付ファイルやリンクを通じてウイルスに感染してしまうといったケースも少なくありません。
こうしたリスクを防ぐためには、「怪しいリンクはクリックしない」「添付ファイルは必ず確認する」といった対応を日頃から徹底することが大切です。定期的な社内研修や注意喚起を通して、従業員全体のセキュリティ意識を高めていきましょう。
アルバイトやパートスタッフについては、正社員と比べて勤務期間が短く業務経験も浅い場合が多いため、特に注意が必要です。「セキュリティ対応のマニュアルを渡す」「チェックリストを配布する」など、実務に即したかたちでルールを伝える工夫が求められます。
不動産仲介の現場では、管理会社やオーナー、広告代理店など外部とのやり取りも多くなります。しかし、こうした日常的なメールに紛れて、攻撃者がなりすましメールを送ってくるケースがあります。
特に、普段のやり取りとは異なる文面や急ぎの対応を求める内容には、一呼吸置いて冷静に対応することが重要です。具体的には、「【重要】融資の件で本日中に書類確認が必要」「【緊急】修繕対応のため至急添付ファイルを確認してください」といった、時間的プレッシャーをかける文面に要注意です。
送信元のメールアドレスや本文の言い回し、添付ファイルの拡張子などに違和感がないかを確認し、総合的に判断しましょう。
万が一、サイバー攻撃を受けてしまった場合に備えて、「誰がどこに連絡し、どのような手順で対応するか」を事前にまとめた「緊急対応マニュアル」を用意しておくことが不可欠です。
たとえば、システムが使えなくなった際に備えて紙ベースの対応フローや連絡先一覧を準備しておくと、初動対応がスムーズになります。特に小規模店舗の場合は、個人の判断に頼らず、社内全体で共有できるルールを作っておくことがポイントです。
サイバー攻撃は、決して一部の大企業だけが直面する問題ではありません。中小規模の不動産会社でも、顧客情報や業務データが狙われるリスクは十分あり得るため、日頃から営業スタッフ一人ひとりの意識を高めておくことが大切です。
本記事で紹介した対策法を参考に、まずはパスワードやセキュリティソフトの見直しから取り組んでいきましょう。この閑散期を、次の繁忙期に向けたセキュリティ対策の体制づくりに活かしていってください!
記事へのコメント | |
今回の「サイバー攻撃」に関する記事を読んで、実際にサイバー攻撃を経験された方は、ぜひその体験談を教えてください。
例えば、
・どのような被害に遭いましたか?
・その時、どのように対処しましたか?
また、被害を防ぐために行った対策や、こんな対策が有効だったという実体験もぜひお聞かせください。皆さんの経験が、他の読者の皆さんにとって貴重な情報となります。