最終更新日:2025/11/02
記事公開日:2025/11/04
不動産の賃貸営業に携わるうえで欠かせないのが「賃貸借契約書」と「重要事項説明」です。どちらも契約トラブルを防ぐための基盤となるものですが、専門用語が多く分かりづらいのも事実です。
本記事では現場で押さえるべきポイントを、賃貸営業を始めたばかりの方や、これから宅建士試験に挑戦する方にとって、実務と試験の両面で役立つ知識を整理しました。ぜひ、参考にしてください。

目次
賃貸借契約書は、貸主と借主の契約内容が記載されている重要な書類です。ここでは、顧客から「あなたに任せたい」と言われる、賃貸借契約書にまつわる3つの極意について解説します。
賃貸借契約書にはさまざまな条項が記載されています。国土交通省が提供している「賃貸借契約書のひな形」に記載されている基本事項は以下のとおりです。
【賃貸借契約書の基本条項】
| 項目 | 記載内容 |
| 建物・住戸に関する情報 | 建物の名称、所在地、建て方(例:共同建て)、構造(例:木造)、階数、戸数、工事完了年、住戸番号(例:101)、間取り(例:1K)、面積、設備一覧など |
| 契約期間に関する情報 | 契約開始日、契約終了日、契約期間 |
| 賃料等に関する情報 | 賃料・共益費の金額(支払い期日・方法)敷金・礼金など |
| 貸主及び管理業者に関する情報 | 貸主の氏名・住所・電話番号、管理業者の社名・所在地・電話番号など |
| 借主及び同居人に関する情報 | 借主・同居人の氏名・年齢、借主の電話番号、居住人数 |
| 家賃債務保証業者・連帯保証人に関する情報 | 家賃債務保証業者の社名・所在地・電話番号、連帯保証人の氏名・住所・電話番号など |
| その他 | ・使用目的(居住用・事業用)・禁止又は制限される行為(ペット不可など)・オーナーから契約解除される行為(家賃滞納など)・契約更新、借主からの解約についての方法・原状回復・修繕についての取り決め など |
参考:賃貸住宅標準契約書|国土交通省
賃貸借契約書には、賃料・共益費などの金額と支払い方法から、敷金・礼金など一時的に支払う金銭、契約期間、更新・解約についてのルール、物件の用途、使用方法に関する制限など、賃貸借に関連する重要条項が記載されています。
これらは全て、オーナーにとって入居後の収益確保と資産保全に直結する重要事項です。将来的な紛争を予防し、貸主の権利を守るためにも、特約事項を含めて不備がないかを貸主・管理会社は徹底的に確認しましょう。
入居者が退去した後は、次の入居者を入れるために原状回復工事を行います。
長期的に住み続けていると安定した収益を得られますが、いざ退去という時には、部屋の中が劣化しているケースが多いため、高額な修繕費に頭を抱えるオーナーは少なくありません。
そのため、借主の責任による修繕箇所については、入居者に修繕費の負担をしてもらうことになります。原状回復工事については、借主の負担割合を賃貸借契約書に記載していないと、後々トラブルが発生した場合、解決するのが難しいケースがあります。
原状回復・修繕条項での重要な注意点はこちらです。
・通常損耗と特別損耗の区別をする(経年劣化や通常の使用による損耗の負担は貸主、借主の故意または不注意による修繕負担は借主)
・修繕費用負担の特約を設定する(どこまでの修繕を借主が負担するのかを設定すると分かりやすい)
・クリーニング費用に関する特約を設定する(退去時のハウスクリーニング費用を借主が全額負担すると定めているオーナーが一般的)
ただ、賃貸借契約書には原状回復・修繕についての基本的な条項を記載するだけなので、実際に原状回復工事をするとなると、双方の認識の違いや費用負担の線引きなどを巡り、話し合いが進まない場合があります。
実際、筆者の家族が所有している物件でも、賃貸契約書で基本条項を記載しているにもかかわらず、認識の違いにより原状回復で借主とトラブルが発生したことが何件かありました。問題がこじれると、最終的に裁判となってしまう場合があるため、細かい部分に関しては、特約条項の欄に記載しておくことをおすすめします。
賃貸借契約の特約とは、基本条項には記載されていない、個別の物件や当事者の事情に応じて特別に追加・変更される約束事のことです。
特約を付けた契約が成立した場合、当事者同士の合意が優先されるため、借地借家法や民法の一般ルールよりも、貸主が有利な条件になる場合があります。
ただし、借主に著しく不利なものは無効とされることがあるため、特約に記載したからといって、全て貸主が有利になるとは限りません。例えば、原状回復費用を借主に全額負担させる、あるいは更新料を極端に高額な金額に設定した場合などは無効になる可能性が高いため、設定する際は内容に注意することが必要です。
なお、曖昧な表現や抽象的な内容を記載すると、後々トラブルの原因になりやすいため、契約内容は明確にしておきます。共用部分の使い方などは契約書に明記しましょう。
重要事項説明とは、宅地建物取引業法に基づき、不動産を借りたり買ったりする前に、宅地建物取引が契約相手(借主・買主)に対して行う説明のことです。いわば、「契約する前に知っておくべき大切な情報の説明」といえます。
ここでは、宅建士としての説明責任とリスクなどについて解説します。
宅建士には契約相手に対して、重要事項説明を正確かつ適切に行う義務があります。
重要事項説明書に記載のない事項を口頭で説明しても無効となる可能性があるため、必ず書面を相手に交付した上で説明することが必要です。その際、宅建士は宅地建物取引士証を提示して説明を行います。
説明に誤りがあれば損害賠償請求を受けるリスクがあるため、法令制限や物件状況については事前調査を徹底しなければなりません。説明を省略したり不十分だったりする場合、宅建業者(不動産会社)は、業務停止命令など行政処分の対象となります。
なお、近年ではIT重説も可能です。2022年5月の法改正により、電子書面での重要事項説明書も有効になりました。対面時と同様に、買主・借主に対しては説明前に書面(電子書面も可)や添付資料を送付することが義務付けられています。
賃貸借契約で、宅建士が特に現場で強調すべき説明ポイントはこちらです。
・借主が負担する金銭
・物件の利用制限
・解約条件
特に借主が負担する金銭については、しっかり説明しておくことが必要です。
例えば、原状回復における借主の負担部分、ハウスクリーニング代は借主負担、短期解約違約金などが挙げられます。
国土交通省が提供する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が示す基準を超えている場合は、特に借主に金銭的負担が生じる部分を明確に伝えることが欠かせません。
物件の利用制限についての説明も強調すべきポイントです。
代表的な例としては、ペット飼育・室内喫煙の禁止、楽器演奏の制限などがあります。これらの行為は入居後の生活に直結する制限であるため、違反した場合の契約解除リスクを強調しながら説明するようにしてください。借主が解約する際に必要な期間も説明します。
これらを明確に説明することで、貸主・借主間のトラブルを未然に防げるようになります。
宅建士が重要事項説明を行う際に顧客理解を深めるには、不動産に詳しくない人でも分かりやすいように説明するのがポイントです。専門用語はかみ砕いて伝えるようにしましょう。
賃貸契約における専門用語の言い換え事例は以下のとおりです。
【賃貸契約における専門用語の言い換え事例】
| 専門用語 | お客様への言い換え事例 |
| 原状回復 | 「退去時に部屋を元の状態に戻すことですが、普通に生活していてできる損傷や経年劣化については大家さんの負担です。」「例えば、タバコのヤニ汚れや、不注意で床に大きな傷をつけてしまった場合などは、借主様のご負担になります。」 |
| 敷金 | 「家賃未払いなどに備えて大家さんに預ける保証金です。」「家賃の未払いがなければお返ししますが、借主様に責任がある部分の修理代などに使われることもあります。」 |
| 礼金 | 「契約時にお礼として大家さんに渡すもので、退去してもお返しできません。」 |
| 更新料 | 「契約期間が終わっても借主様がこれからも住み続けたい場合に大家さんへ支払うお金です。」「引き続きお部屋を貸してもらうことへの謝礼金のような意味合いです。」 |
| 普通賃貸借契約 | 「お客様が希望される限り、住み続けることができる賃貸契約です。」「契約期間は2年が一般的ですが、更新手続きさえ行えば、長く安心して住んでいただけます。」 |
例えば、原状回復は「退去時に部屋を元の状態に戻すこと」と言い換えるなど、誰にでも理解しやすい表現に置き換えます。
一方的に話すのではなく「ここまででご質問はありますか」と確認し、顧客の反応を見ることも必要です。相手の理解度を確認しながら説明を進めると、顧客が内容をしっかり把握できるため、認識の違いを防げるようになります。
不動産営業で成果を出すには、信頼関係と知識の両立が必要です。ここでは、不動産営業で成功するためのチェックポイントをご紹介します。
成功するためのチェックポイントでまず挙げられるのは、契約トラブル事例から実務知識を学ぶことです。日頃から契約トラブル事例や実務に使えそうな知識を学んでおくようにしましょう。賃貸借契約にまつわる過去の判例やトラブル事例を参照し、背景や原因を理解しておきます。
例えば賃料滞納や原状回復費用でのトラブルなどは実際に起こりやすいため、どう解決されたかを学ぶことで応用力を身につけられます。トラブル発生時の対応手順を事前にシミュレーションしておくこともポイントです。
現場で冷静に行動できるため、スピーディーかつ的確な対応を進められる営業として、顧客から信頼されます。
営業現場でのミスを防ぐためには、チェックリストの活用が効果的です。チェックリストの例はこちらです。
【業務で使えるチェックリスト】
| チェック項目 | |
| 契約前(重要事項説明・契約締結) | ◻︎契約書に記載すべき項目の確認(期間・賃料・敷金礼金など) ◻︎顧客に説明すべき重要事項(解約条件・更新料など)の伝達 |
| 物件確認・内見時 | ◻︎設備の動作確認(給湯器・エアコン・水回りなど) ◻︎建物の状態(壁・床・雨漏り・ひび割れ)をチェック ◻︎周辺環境(交通・騒音・治安・生活利便性)の確認 |
| 契約更新・解約時 | ◻︎更新料の支払有無・金額の確認 ◻︎解約通知期間や手続きの確認 ◻︎原状回復範囲の確認(クリーニング・修繕費用の分担など) |
チェックリストを活用することで、営業担当者は説明漏れや確認不足を防ぎ、顧客に信頼と安心感を与えられます。
不動産営業で成功するには、定期的な知識のアップデートが必要です。民法や借地借家法の改正、賃貸市場の動向、最新の住宅設備など、業界は常に変化しています。
最新の情報をチェックしなければ、顧客に誤った説明や古い情報を流して信頼を失う可能性があります。日々の業務で感じた疑問点もそのままにせず、研修やセミナーを通じて学び直すことで、提案の幅も広がり顧客満足度が高まるでしょう。
宅建士は不動産契約に欠かせない存在であり、賃貸や売買など重要な契約業務を担います。不動産契約は人の財産に直結するため、間違いがあってはなりません。顧客や自社に損害を与えないためには正確な知識で対応することが必要です。
そのため、優秀な宅建士は正しい契約を行えるように、最新の業界動向や法律改正などの情報を常に学んでいます。現場で生じる疑問点やトラブルについては、スピーディーかつ的確に解決する行動力を備えていることも重要です。知識と行動力を併せ持つことが、顧客から信頼される宅建士への近道といえるでしょう。
記事へのコメント | |