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「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは?~メリットと注意点を噛み砕いて説明~

記事公開日:2024/08/22

最終更新日:2024/09/11

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賃貸物件における高齢者の孤独死が増えつつある中、残置物の処理が問題となることが多くあります。遺族との連絡がつかず、残置物の処分費用を誰が負担するのかが不明確な状況になれば、空室期間が長引いてしまい、物件オーナーや不動産会社にとって大きな損失になります。

こうした問題を解決するために、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が有効です。この条項を活用することで、法的リスクを軽減し、スムーズな物件管理が可能になります。

今回は、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(以下、「モデル契約条項」といいます。) の具体的なメリットや注意点などを解説します。国土交通省より、2024年6月4日、残置物の処理に関するモデル契約条項について、普及と活用を図るため、分かりやすく解説したガイドブックが作成されました。

本記事では、ガイドブックをさらに分かりやすく解説します。 この記事を読むことで、効率的な物件管理方法や法的リスクの回避方法について理解できます。不動産会社の方は、ぜひ参考にしてください。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは

日本の単身高齢世帯は現在約700万世帯で、2040年には約900万世帯となる見込みです。そして、一人暮らしの高齢者が増加することで深刻になっているのが「孤独死」の問題です。

そこで、国土交通省や法務省から公表されているのが「残置物の処理等に関するモデル契約条項」です。賃貸物件で入居者が亡くなったときに、契約関係や居室内に残された物(残置物)を円滑に処理するための契約条項です。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することで、物件オーナーや不動産会社は残置物を早く、合法的に処理できるようになります。特に高齢者が孤独死した場合など、相続人の有無や所在が明らかでないケースにおいて有効です。

参考資料:国土交通省住宅局参事官|残置物の処理等に関するモデル契約条項について

「委任契約」と受任者になれる立場

委任契約には、以下の種類があります。

・委任契約

・準委任契約

委任契約とは、法律行為を委託する契約のことで、準委任契約は事実行為(事務処理)を委託する契約です。今回でいうと賃貸借契約の解除を委託する部分が委任契約となり、残置物の処理を委託する部分が準委任契約として整理されます。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」では、賃貸借契約の存続中に賃借人が死亡した場合に備えて、入居者の推定相続人や居住支援法人1、管理会社等の第三者2を受任者とすることが想定されています。 受任者には、賃貸借契約の解除権、賃貸人からの解除の意思表示を受ける代理権、残置物を処理する義務が生じます。なお、賃貸人を受任者とすることは、民法90条や消費者契約法10条により無効となる可能性があるため避けるべきです。

  1. 1:居住支援を行う法人として都道府県知事が指定するもの。NPO法人や一般社団法人など。 ↩︎
  2. 2:推定相続人が受任者になることが難しい場合。管理会社を受任者とすることは、民法上直ちに無効とはならないものの、無効となる危険性がある。 ↩︎

受任者の立場を明確にすることで、法的な手続きがスムーズに進み、残置物の速やかな処理ができる可能性が高まります。

なお、モデル契約条項は、賃貸借契約において解除関係事務委任契約・残置物関係事務委託契約が締結されたことの通知義務などは設けていません。実務運用としては、賃借人が解除関係事務委任契約・残置物関係事務委託契約を締結した旨及び受任者の氏名・名称や連絡先などの必要事項を賃貸人に連絡し、賃貸人がこれを確認した上で賃貸借契約が締結されます。

また、賃貸借契約とは別に、賃借人(委任者)と受任者の間で賃貸借契約の解除権と残置物の処理について委任する旨の委任契約を締結して、賃貸人に対して委任契約締結の旨を通知させるパターンがあります。

さらに賃貸借契約とは別に、賃借人(委任者)と受任者の間で賃貸借契約の解除権と残置物の処理について委任する旨の委任契約を締結して、賃貸借契約書内に委任契約に関連する条項を記載するパターンもありますが、いずれも賃貸借契約とは別に、不動産会社が当事者とならない委任契約の締結が必要です。

賃貸物件では、残置物の処理が遅れることが大きな問題です。例えば、相続人の有無や所在が明らかでなく、連絡がとれない場合などです。この場合、残置物の処理が進まず、新たな入居者を迎えられません。

受任者の義務

受任者は、適切な処理方法を選び法律及び委任契約に従って残置物を処理することが求められます。また、委任者や相続人の意向を考慮し、委任者と相続人の利益のために誠実に委任事務を処理することが前提となり、賃貸人の利益を優先してはなりません。さらに残置物の性質、価値及び保存状況等も考慮が必要になります。

残置物の処理が適切に行われないと、大きなリスクがあります。特に高齢者の孤独死の場合、遺品の中には貴重品や個人情報が含まれていることが多く、不適切な処理は法的なトラブルを招く可能性があるでしょう。

そのため、賃借人と受任者間の契約書に処理方法や費用負担の詳細を記載し、受任者が義務を果たすことを確約することが重要です。受任者の義務を明確にすることで、トラブルの発生を防ぎ、法的なリスクを軽減できます。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」がもたらすメリット

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することで、物件オーナー、不動産会社、入居希望者(入居者)のすべてがメリットを受けられます。ここでは、それぞれの立場から見たメリットを詳しく解説します。

物件オーナー

物件オーナーが享受できるメリット

・残置物を迅速に処理できる可能性が高まる

・収益が安定しやすい

・経済的負担を軽減できる

入居者が退去した後に残された物品を処理するためには、法的な問題や費用の負担が伴います。問題が長引くと、新しい入居者を迎えることができず、収益に影響を与えるため、注意が必要です。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を導入することで、法的に正しい手続きで迅速に残置物処理できる可能性が高まります。迅速な対応により、物件の収益が安定し、管理の手間も減ります。

さらに、処理費用は入居者負担にできるため、物件オーナーの経済的負担も軽減されます。

不動産会社

不動産会社が享受できるメリット

・業務の効率が向上する

・顧客の満足度が向上する

・法的トラブルを回避できる

入居者が退去する際に残置物が残ると、新しい入居者の募集が遅れ、業務に支障が出ます。「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を取り入れることで、不動産会社はスムーズに物件を管理でき、迅速に次の入居者募集が可能です。 残置物を速やかに片付けることにより、きれいな状態で物件を案内できるため、顧客満足度も高まります。また、法的なトラブルを避けるための明確な指針が得られるため、安心して業務を進めることが可能です。

入居希望者(入居者)

入居希望者(入居者)が享受できるメリット

・高齢者が賃貸物件に入居する機会が拡大する

・高齢者の入居者が安心できる

高齢者が賃貸物件に入居する際、万が一の事態で残された荷物をどう処理するかが賃貸人にとって大きな懸念材料です。しかし、モデル契約条項では、残置物の処理方法をあらかじめ決めておくことで、賃貸人が持つ「荷物が残されてしまうかもしれない」という不安を軽減できます。これにより、賃貸人が高齢者の入居を受け入れやすくなります。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することで、残置物に関する解決策があらかじめ用意されているため、安心して賃貸物件に入居できるようになります。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を適用して契約する際の手順

不動産会社にとって、残置物の処理等に関するモデル契約条項を活用する際の手順を知ることは重要です。手順を理解することで、契約トラブルを避け、円滑な物件管理が可能になります。

ここでは「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用して賃貸借契約を締結する際の手順を解説します。

賃貸物件契約のとき

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(以下、「モデル契約条項」といいます。) は以下の3つから構成されています。

1.解除関係事務委任契約

2.残置物関係事務委託契約

3.賃貸借契約に上記1・2の(準)委任契約に関する条項を加える場合

「1.解除関係事務委任契約」は、賃借人が賃貸借契約の存続中に死亡した場合に備えて、賃貸借契約を終了させるための代理権を、賃借人から受任者に授与する委任契約です。

また「2.残置物関係事務委託契約」は、賃貸借契約の終了後に残置物を物件から搬出して廃棄する等の事務を、賃借人から受任者に委託する準委任契約です。解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を同じ受任者との間で締結する場合には、1通の契約書としてまとめることが可能です。

さらに「3.賃貸借契約に上記1・2の(準)委任契約に関する条項を加える場合」とは、賃借人と受任者の間で1・2の契約を締結した後、賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約を締結する際、(準)委任契約を引用し、賃貸借契約の一部とする契約です。

モデル条項を盛り込んだ賃貸借契約を締結する前に、推定相続人や居住支援法人などの受任者と入居者の間で「解除関係事務委任契約」と「残置物関係事務委託契約」を交わすことが必要です。また、入居者と受任者との間で(準)委任契約を締結した後、受任者の情報について賃貸人に通知してもらう必要があるため知っておきましょう。

参考:国土交通省|残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック

入居者が死亡したとき

賃借人が死亡した場合、賃貸人は、速やかに、残置物関係事務委託契約の受任者に対し賃借人死亡の旨を通知しなければなりません。

「残置物の処理に関するモデル契約条項」では、入居者の推定相続人や居住支援法人などが受任者として、法的に認められた手順で残置物を処理することが定められています。

具体的な手順は、以下のとおりです。

  1. 1.契約書に基づき手続きを確認
  2. 2.相続人への連絡と協議
  3. 3.残置物の状況確認
  4. 4.処理手続き(遺族不在時)

入居者の死亡後、まず遺族または相続人に連絡し、残置物の処理方法について協議します。実際に物件内で、残置物のリストを作成し、必要に応じて写真を撮影して記録を残すのがおすすめです。以下の「残置物関係事務委任契約の第8条(金銭の取扱い)」にあるように、金銭や貴重品が含まれている場合は、慎重に取り扱う必要があります。

残置物の処理費用については、以下の「第10条(委任事務処理費用)」にあるとおり、委任者の相続人に請求できます。

引用:国土交通省|残置物の処理等に関するモデル契約条項

遺族がいない場合や連絡が取れない場合、適切な手続きと記録を残すことが重要です。

これにより、残置物の処理が迅速に行われ、次の入居者を迎えるための準備がスムーズに進みます。さらに、法的なリスクを軽減し、物件の空室期間を狭めることが可能です。

参考:国土交通省住宅局参事官|残置物の処理等に関するモデル契約条項について

参考:国土交通省|残置物の処理等に関するモデル契約条項

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の実例(高齢入居者の孤独死ケース)

高齢入居者が孤独死した際、残置物の処理がスムーズに行われないと、物件の稼働率が低下し、収益にも影響します。ここでは、モデル契約条項を活用した(準)委任契約を締結しなかった場合のデメリットを解説します。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が適用できない場合

通常の賃貸借契約を締結していても、賃借人と受任者の間で「解除関係事務委任契約」「残置物関係事務委託契約」を別途締結していない場合、以下のようなトラブルになる可能性があります。

・遺族と連絡が取れず、数週間も物件が空き家になる

・処理が遅れることで、新しい入居者を迎えるまでの時間が延び、収益が低下する

この場合、物件オーナーや不動産会社は相続人との連絡を取り、残置物処分に関して個別に手続きを進める必要があり、多くの手間と時間がかかります。

さらに、処理が遅れることで新しい入居者を迎える準備が遅れ、空室期間が長引きます。迅速な対応が難しいため、物件の管理が困難になり、賃貸経営に支障をきたすでしょう。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が適用できる場合

「残置物関係事務委託契約」を交わしている場合は、委任内容に基づいてスムーズに残置物を処理できます。主な実例は、以下のとおりです。

・委任契約書に基づく手順でスムーズに処理が進むため、迅速な対応ができる

・迅速な処理で新しい入居者を迎える準備が整い、収益の安定化が図れる

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することで、物件オーナーや不動産会社は効率的に物件を管理し、法的なリスクを減らしながら収益を安定させることができます。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」まとめ

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、賃貸物件の解除、または残置物の処理を効率的に行うための重要な契約条項です。モデル契約条項を活用することで物件オーナー、不動産会社、入居者全員に以下のようなメリットがあります。

・物件オーナー…法的リスクを減らせる

・不動産会社…迅速な対応ができる

・入居者…安心して契約できる

高齢入居者の孤独死など、特にデリケートなケースでもスムーズに対応が可能です。今後の契約に取り入れて、より良い賃貸管理を実現しましょう。

不動産ライター 岩井 佑樹

合同会社ゆう不動産/岩井 佑樹

この記事を書いた人

これまで不動産関連SEO記事を500本以上作成。
日ごろから心がけていることは、記事を読む人が「どんなことで悩んでいるのか」「どんなことを知りたいのか」など。不動産業界10年の経験と知識、アパート大家の観点から書く記事で不動産の悩みを解決している。現役で不動産業に携わり、現場の「リアル」に触れているからこそ発信できる記事作成が強みの「不動産特化Webライター」

■現在の職業/肩書き/資格など
不動産会社経営/代表/宅建士

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