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【2025年4月施行】LPガス法改正で何が変わった?不動産業界への影響と賃貸営業に求められる対応

記事公開日:2025/06/09

最終更新日:2025/06/06

2024年、LPガス法(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則)の施行規則が改正され、LPガス取引の透明性が大きく向上しました。

これまでは賃貸契約時にLPガス料金について詳しい説明がなく、入居者が住み始めてから高額な請求に驚くケースが多く見られました。こうした不透明な仕組みはクレームやトラブルの原因となり、仲介業者やオーナーにとっても頭を悩ませる問題となっていたのです。

そこで本記事では、2024年から2025年にかけて段階的に進められた「LPガス法施行規則改正」について、分かりやすく解説していきます。賃貸営業として押さえておきたい対応策や実務上の注意点についても詳しく紹介しますので、ぜひお役立てください!

LPガス法施行規則改正の概要と目的

LPガス取引の透明性向上と消費者保護を目的として、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」(LPガス法)の施行規則改正が、2024年から段階的に始まっています。

従来の業界では、ガス会社が「無償貸与」の名目で設備費用をガス料金に含めることで、知らないうちに入居者の負担が重くなってしまう実情がありました。さらに、オーナーも入居者の実際の料金を把握しづらい状況が続いていたのです。

こうした背景を踏まえて、今回の施行規則改正によりLPガス料金の仕組みが抜本的に見直されました。これまで不透明で高額とされてきた料金体系が改善され、消費者が正確な情報に基づいて入居を判断できる「公平で透明な制度の実現」が期待されています。

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2024年7月に施行された2つの施行規則改正

LPガス法施行規則は段階的に見直しが進められており、2024年7月には以下の2つの改正が施行されました。

2つの改正

・過大な営業行為の制限
・LPガス料金等の情報提供

透明性の高い取引を実現するための重要な改正となっているため、賃貸仲介営業職としてしっかりと理解しておきましょう。

過大な営業行為の制限

2024年7月2日より、LPガス事業者が不動産オーナーや建設関係者に対して行う過度な利益供与が制限されるようになりました。

これまで業界では、LPガス事業者がオーナーに対して設備の無償提供やメンテナンス費用の負担、高額な紹介料の支払いなどを行うケースが見られました。しかし、こうした費用は最終的に入居者のガス料金に転嫁されることが多く、不透明な料金体系の原因となっていたのです。

そこで本改正により、LPガス事業者が「設備貸与や紹介料などの名目で、オーナーなどに過大な利益を与えること」や「契約内容に不当な条件を付すこと」が制限されることになりました。

この規制により、入居者が知らずに負担していた不透明なコストの解消が図られ、より公正な料金体系の実現が期待されています。

LPガス料金等の情報提供

同じく2024年7月2日から、LPガス料金の情報提供に関して新たなルールが設けられています。

まず、LPガス事業者には、入居希望者へのLPガス料金の事前提示が努力義務として定められました。事業者は、「入居希望者に直接料金を提示する」か「オーナーや不動産仲介業者等を通じて情報提供を行う」のが望ましいとされています。

これにより賃貸仲介業者は、LPガス事業者から提供された料金情報を、物件紹介の段階で入居希望者に伝える重要な役割を担うことになりました。

さらに重要なのは、入居希望者が直接LPガス事業者に料金等の情報提供を求めた場合、事業者がそれに応じるよう義務付けられた点です。これまで入居者がガス事業者に直接問い合わせても詳しい情報を得にくい状況でしたが、施行規則改正により透明性が大幅に向上したと言えます。

こうした体制が整うことで、入居者が契約前にガス料金を把握しやすくなり、入居後の「こんなに高いとは思わなかった」というクレームやトラブルの減少が期待されています。

2024年に施行された施行規則改正について詳しく知りたい方は、以下の参考記事も併せてご確認ください。

2025年4月から施行された「三部料金制の徹底」

2025年4月からは、LPガス料金の表示方法がより詳細で分かりやすいものに変わりました。この変更により、入居者は自分が支払うガス料金の内訳をより明確に把握できるようになっています。

主な変更点について、詳しく見ていきましょう。

1. 三部料金制(設備費用の外出し表示)の徹底

これまでLPガス料金は「基本料金」と「従量料金」の二部制が一般的でしたが、2025年4月からは「基本料金」「従量料金」「設備料金」の三部制での表示が義務化されました。この改正により料金の透明性が高まり、入居者はガス料金の内訳を細かく把握できるようになっています。

また、「設備料金」が別枠で表示されることで、「どのような費用がガス料金に含まれているのか」が明確になった点も、入居者にとって大きなメリットです。さらに、他社との料金比較もしやすくなるため、より適正な価格競争も期待されています。

2. LPガス消費と関係のない設備費用の計上禁止

改正施行規則では、LPガス消費と直接関係のない設備の費用をガス料金に上乗せすることが禁止されました。

これまでは、エアコンやインターホン、Wi-Fi機器など、ガス使用と関係ない設備をLPガス事業者が無料で提供し、その費用を入居者のガス料金に上乗せするケースがありました。このような不透明な料金設定が禁止され、「ガス消費に直接関連する配管や器具等のみ」利用料金に計上できるようになったのです。

これにより入居者の負担がより適正化され、不当な料金上乗せから消費者を保護することが可能になります。

3. 賃貸住宅向けLPガス料金におけるガス器具等の消費設備費用の計上禁止

さらに賃貸住宅では、入居者専用部分のガス器具に関する設備費用をLPガス料金に上乗せして回収することは不適切とされました。そのため、給湯器などの設備費用も「該当なし」として表示されることが原則とされています。

この背景には、賃貸住宅の室内設備は建物の一部としてオーナー様が所有・管理すべきものであり、その費用を入居者のガス料金に転嫁することは適切ではないという方針があります。

LPガス法施行規則改正による影響をわかりやすく解説

LPガス法施行規則改正は、賃貸住宅に関わるさまざまな立場に影響を与えます。取引先であるオーナーや入居者にどのような影響があるのかをしっかり理解し、仲介業者として適切にサポートできる準備体制を整えておきましょう。

貸主(オーナー)への影響

施行規則改正により、オーナーは設備費用の負担方法を抜本的に見直す必要が生じています。

これまでLPガス事業者が無料で提供していた給湯器、エアコン、インターホンなどの設備費用について、オーナー自身が直接負担するか、設備費用相当分を月額家賃に上乗せして回収するかといった選択を迫られることになります。

ただし、既存入居者への家賃値上げについては、退去につながる恐れがあるため、契約更新のタイミングを活用した段階的な調整や、入居者との十分な協議を重ねるなど、慎重な対応が必要です。

また、施行規則改正により新たなリスクも生まれています。入居前にガス料金が開示されることで高額な料金が判明し、契約を見送られるケースも考えられます。従来より都市ガス物件と比較しやすくなるため、LPガス物件の競争力低下も懸念されるところです。

賃貸仲介業者に求められる対応

オーナーに対しては、施行規則改正の内容を分かりやすく説明し、設備費用の負担方法について具体的な提案を行うことが重要です。

従来の無償貸与から自己負担への移行について、家賃改定や設備利用料での回収など複数の選択肢を示し、物件の競争力を維持できる最適なプランを一緒に検討していきましょう。

家賃改定が必要となった場合は、まず近隣相場との比較分析を行った上で、以下のような客観的根拠に基づいた説明ができる様にしておきましょう。

トーク例

「ガス料金が適正化されることで、入居者様の月額負担が軽減される分、家賃を月額3,000円値上げすることをご提案いたします。近隣の類似物件と比較してもトータル負担額は競争力のある水準を保てます。」

また、LPガス事業者との契約見直しが必要な場合は、適正な料金設定の事業者との橋渡し役となることで、オーナーの信頼獲得につながります。三部料金制の導入により他社との比較がしやすくなるため、オーナーの意向に沿った事業者を選定できるよう、しっかりとサポートしましょう。

借主(入居者)への影響

入居者にとっては、ガス料金の透明性が大きく向上し、不当な料金上乗せから保護されるというメリットがあります。また、入居前にガス料金を確認できるようになったことで、より適切な物件選びができるようになります。

さらに、ガス消費と関係のない設備費用や、賃貸集合住宅においてはガス器具の費用もガス料金に含まれなくなるため、適正な料金で利用できるようになります。改正前と比べて、入居者の権利が強化されたと言えるでしょう。

賃貸仲介業者に求められる対応

入居希望者に対しては、物件紹介の段階でLPガス料金の詳細情報を必ず提供し、三部料金制による内訳についても、分かりやすく説明できるようにしておきましょう。

例えば、「基本料金と従量料金ってどう違うんですか?」といった質問を受けた際は、以下のように具体例を交えて説明すると効果的です。

トーク例

「基本料金はガスを使わない月でも発生する固定費で、従量料金は実際にお使いになったガスの量に応じてかかる変動費用となります。携帯電話の基本料金と通話料のような関係とお考えいただければ、分かりやすいかと思います。」

また、入居希望者がLPガス事業者に直接問い合わせを希望する場合は速やかに連絡先を伝え、スムーズに情報を取得できるようサポートしましょう。

賃貸仲介業者として注意すべき5つのポイント

施行規則改正に伴い、賃貸仲介業者が特に押さえておくべきポイントがあります。これらのポイントを日々の業務に積極的に取り入れ、オーナーと入居者の双方に質の高いサービスを提供していきましょう。

1. 入居前の料金説明を徹底する

LPガス料金の事前提示は努力義務として法定化されており、仲介業者として入居希望者への適切な情報提供が求められています。

物件紹介時には、三部料金制による内訳を具体的な金額で示し、月額のガス使用量に応じた概算料金を提示することが重要です。

例えば、以下のように入居希望者が実際の負担額をイメージしやすいよう具体的な数字を用いて説明すると効果的です。

トーク例

「こちらの物件のLPガス料金は、基本料金が月額2,000円、従量単価は600円となっております。一人暮らしの平均的な使用量とされる5㎥で計算した場合、月額約5,000円程となる見込みです。」

さらに、都市ガス物件との比較を求められた場合は、以下のように客観的な視点での情報提供を行うことで、後のトラブル防止につながります。

トーク例

「都市ガスですと、同じ使用量で3,000円程度になりますが、近隣の都市ガス物件より家賃が2,000円ほど安く設定されているため、トータルでのご負担はほぼ同等となります。」

2. 新規契約と既存契約の違いを理解する

三部料金制については、「新規契約」と「既存契約」で適用範囲が異なる点に注意しましょう。

設備費用を別枠で表示する「外出し表示」については、新規契約・既存契約を問わず全ての契約に適用されます。一方で、ガス料金への設備費用計上を禁止するルールは新規契約のみが対象となり、既存契約については可能な限り早期に新しいルールへ移行するよう努力義務に留まっています。

仲介業者としてオーナーや入居者に対して契約状況に応じた適切な説明ができるよう、契約状況による適用範囲の違いをきちんと理解しておきましょう。

3. 罰則対象を把握する

LPガス法施行規則改正では具体的な罰則規定が設けられており、違反行為に対して段階的な処分が適用されます。

まず報告徴収や立入検査が実施され、改善されない場合は勧告が行われます。さらに勧告に従わない場合は公表、基準適合命令と処分が重くなり、最終的には登録取消しや30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

罰則は主にLPガス事業者が対象となりますが、仲介業者や管理会社、オーナーについても適正な情報提供を怠った場合、行政指導の対象となるかもしれません。

例えば、入居希望者に対して「ガス代は安いですよ」と根拠のない説明をしたり、三部料金制の内訳を正確に伝えなかったりした場合、不適切な情報提供として問題視される恐れがあります。

経済産業省の「LPガス商慣行通報フォーム」により監視体制も強化されているため、法令遵守を徹底した透明性の高い取引を心がけましょう。また、取引先の事業者による違反行為を発見した場合、状況に応じて指摘・通報を行うことも、賃貸仲介業者としての重要な役割です。

4. 取引適正化ガイドラインを効果的に活用する

2024年7月のLPガス法施行規則改正の施行と同時に、「取引適正化ガイドライン」も改正されました。

このガイドラインは単なる法令解説ではなく、日々の業務で起こり得る具体的なケースへの対応方法が記載されているため、実践的なマニュアルとしても活用できます。

例えば、LPガス事業者から「オーナーに設備の無償貸与やフリーメンテナンスを提供します」といった営業提案があった場合を想定します。ガイドラインではこれらが「過大な営業行為の例」として挙げられているため、「この提案内容は現行ルールに反する可能性がある」と適切に判断できます。

また、入居者から料金に関する複雑な質問を受けた場合も、ガイドラインの説明事項を参考にして根拠を示しながら説明することで説得力が増します。例えば、「ガス料金が勝手に上がることはありませんか?」という不安に対しても、ガイドラインで料金変更時の事前通知が詳細に規定されていることを説明することで、入居者に安心してもらえます。

このように、ガイドラインには実務上の具体例や対応方法が詳細に記載されています。社内での情報共有に用いることで、スタッフが統一した対応を行えるようになるというメリットもあるため、積極的に活用しましょう!

参考:経済産業省「液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針」(取引適正化ガイドライン)

5. LPガス事業者と適切に連携する

施行規則改正への対応をスムーズに進めるためには、LPガス事業者との連携が欠かせません。料金情報の提供や三部料金制への移行について、事前に話し合い準備を整えておきましょう。

例えば、「来月から基本料金が変更になると聞きましたが、最新の料金表をいただけますか」といった形で積極的に情報収集を行うなど、入居者やオーナーに対し常に正確な情報を提供できるようにしておくことが重要です。

LPガス法施行規則改正を営業チャンスに変えよう

LPガス法施行規則改正により料金が透明化されることで、入居者の満足度と物件の競争力アップにつながります。この変化をサービス向上のチャンスとして活かせるよう、積極的に施行規則改正への対応を進めていきましょう。

オーナーには施行規則改正の内容をわかりやすく説明し、適切な対応策を提案することで、信頼関係をさらに深めることができます。また、入居希望者には明確な料金情報を提供することで、後のトラブルを未然に防ぎ、満足度の向上につなげられるでしょう。

本記事を参考に施行規則改正やガイドラインの内容について理解を深め、賃貸仲介業者としての専門性を高めていってください!

泉 正孝

この記事を書いた人

ウェブスタジオイズミ代表。宅地建物取引士・マンション管理士・管理業務主任者・相続マイスター。東京都在住。大学卒業後、電鉄系総合不動産会社に入社し、不動産仲介事業部に所属。

不動産業界歴10年以上、ライター歴7年以上、サイト運営歴9年以上の経験を活かし、ライター兼ディレクター、SEOコンサルタントとして活動中。「住宅ローン・相続・税金・保険・資産運用」など、実体験に基づく記事を1900本以上執筆。SEO上位獲得多数。専門家として1次情報とエビデンスを重視し、読者目線の執筆を心がけている。

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