記事公開日:2025/06/23
最終更新日:2025/06/20
住宅価格の上昇や将来の教育費への不安から、子育て世帯の住宅購入のハードルが高くなってきています。しかし、従来の賃貸住宅では子どもの足音や泣き声などの騒音問題、子育てに配慮した設備の不足など、様々な課題を抱えているのが現状です。
そこで、この記事では行政が進める「子育て世帯向け住宅支援」や子育て世帯から支持を集める「UR都市機構」のサービス内容など、最新の支援制度や取り組みを詳しく解説します。
さらに、子育てニーズに合わせた物件提案のコツなど、営業現場ですぐに使える実践的なポイントも紹介していますので、ぜひ参考にしてください!
目次
日本の住宅市場において、子育て世帯の住まい選びに大きな変化が起きています。従来の「マイホーム購入が理想」という価値観から、賃貸住宅を積極的に選択する世帯が増加傾向にあるのです。
この背景には、住宅価格の高騰や将来への経済的不安、そして子育て環境に対する多様なニーズの高まりなどがあります。
政府の少子化対策においても、子育て世帯が安心して住める環境づくりが重要課題として位置づけられています。
出典:国土交通省「令和5年度「土地問題に関する国民の意識調査」の概要について」
国土交通省の最新調査によると、賃貸住宅志向が明確に伸びていることが確認されています。「借家(賃貸住宅)で構わない、又は望ましい」と回答した割合は、令和元年度の14.8%から令和5年度には17.5%へと約7ポイント上昇し、特に令和3年度以降の伸びが顕著です。
一方で「土地・建物については、両方とも所有したい」と答えた人の割合は、令和元年度の73.5%から令和5年度には65.0%へと8.5ポイント減少しています。
中でも注目すべきは、子育て世代の賃貸志向の高さです。年齢別では18-29歳で26.4%、30-39歳で23.2%が賃貸志向を示しており、全体平均の17.5%を大きく上回っています。また、政令指定都市では19.5%と全国平均よりも高い数値となっているのは、都市部の住宅価格高騰が影響していると考えられます。
このように、子育て世帯にとって数千万円の住宅ローンを組むことは、将来の教育費や医療費を考慮すると、非常にハードルの高い選択となっているのが現実です。
一般的な賃貸住宅では、子どもの足音や泣き声による近隣トラブルの心配、狭い間取りでの子育ての困難さ、遊び場の不足など様々な課題があります。
都市部では特に、建築コストや土地価格の高騰を背景に、ファミリー層向けの広い物件は供給が限られており、希望条件に合う物件を見つけにくい状況が続いています。結果として、子育て世帯が住宅選びにおいて大きな制約を抱えてしまうのが実情です。
また、核家族化が進み祖父母からのサポートを得にくくなったことや、共働き家庭の増加も影響し、育児を取り巻く負担は年々大きくなっています。さらに、コロナ禍を経て在宅時間が長くなったことで、防音性や居住空間の快適さへのニーズも高まりました。
こうした背景から、子育てと生活の両立を実現するためには、物件選びにおいて「育てやすさ」や「安心して暮らせる環境」が、今まで以上に重要な基準になってきているのです。
令和5年度のアンケート調査では、住まいの立地で重視する点として「日常の買い物など、生活の利便性が高いこと」が27.0%でトップとなりました。
特に子育て世帯においては、保育園への送迎や急な買い物、病院への通院など、日常生活における移動頻度が格段に多くなります。さらに、予期せぬ外出や時間に追われる場面も増えるため、生活の利便性に対する重要度はさらに高まると言えるでしょう。
このように、住環境は単なる「住む場所」ではなく安全で便利な「子育て拠点」としての役割が求められており、行政としても多様なニーズに応えられる住宅供給体制の構築が急務となっています。
子育て世帯の住環境改善に向けて、国や地方自治体では様々な支援制度が整備されています。ここでは、代表的な2つの支援制度について詳しく見ていきましょう。
出典:「子育て支援型共同住宅サポートセンター」
国土交通省が推進する「子育て支援型共同住宅推進事業」は、共同住宅における子育て環境の向上を目的とした補助金制度です。
この制度では、子どもの安全確保のための設備設置(1戸あたり上限100万円)、親同士や居住者の交流施設整備(1棟あたり上限500万円)、宅配ボックス設置(1棟あたり上限50万円)に対して補助金が支給されます。
補助率は新築の場合が工事費の1/10、改修の場合が1/3となっており、賃貸住宅と分譲マンションの両方が対象となります。
対象となる安全設備には、転落防止の柵や手すり、防犯性の高い玄関ドア、チャイルドフェンスなど19項目が設定されており、子どもの事故防止を多方面からサポートしています。
詳しくは、子育て支援型共同住宅サポートセンターの「補助事業内容」のページをご確認ください。
出典:東京こどもすくすく住宅認定制度パンフレット(集合住宅編)
東京都が独自に展開する「東京こどもすくすく住宅認定制度」は、子育てしやすい環境づくりに取り組む優良な住宅を認定・支援する制度です。元々は集合住宅が対象でしたが、2025年5月に戸建住宅にも拡大され、より幅広い住宅形態で子育て支援が可能となりました。
認定は安全性や快適性の充実度に応じて「アドバンスト」「セレクト」「セーフティ」の3段階に分かれており、最も手厚いアドバンストモデルでは改修型賃貸物件の場合、1戸あたり260万円の補助限度額が設定される仕組みです。
認定を受けた物件には専用の認定マークが付与され、東京都住宅政策本部の「認定を受けた住宅一覧」に掲載されます。
詳しい要件について知りたい方は、東京都住宅政策本部「東京こどもすくすく住宅認定制度」をご覧ください。
国や地方自治体による支援制度は、少子化対策として急務とされる重要な取り組みである一方で、まだ十分に認知されていないという課題もあります。
賃貸仲介営業職として、子育て世帯への物件提案に説得力を持たせるためには、こうした支援制度への理解を深めておくことが大切です。
近年、子育て世帯の間で「UR賃貸住宅」への関心が高まっています。民間の賃貸住宅とは異なる独自のメリットや、子育て世帯に特化した割引制度が充実していることが大きな理由です。ここでは、そんなUR賃貸住宅の仕組みやサービス内容について詳しく見ていきましょう。
UR都市機構の正式名称は「独立行政法人都市再生機構」で、国土交通省の外郭団体となっています。
UR都市機構の大きな特徴は、国の政策実施機関という公的な役割と、収益性を追求する企業的な役割という、2つの性格を併せ持っていることです。そのため、良質な賃貸住宅の供給や都市再生事業を通じて豊かな居住環境の創造を目指すという公的な使命を担いながら、同時に効率的な運営も実現しています。
全国各地に約70万戸の賃貸住宅を管理しており、多様なライフスタイルに対応した住まいを提供しています。
UR賃貸住宅が民間賃貸住宅と大きく違う点は、「初期費用を大幅に抑えられること」です。一般的な賃貸住宅では敷金・礼金がそれぞれ家賃の1〜2ヶ月分、仲介手数料が家賃の1ヶ月分程度必要ですが、UR賃貸住宅では礼金と仲介手数料が一切かかりません。
さらに、火災保険への加入も必須ではなく、鍵交換費用も不要です。また、連帯保証人を立てる必要がなく、住民票や収入証明書などの自分で用意できる書類だけで契約手続きが完了するため、入居までのプロセスもスムーズです。
UR賃貸住宅では、子育て世帯を対象とした「子育て割」という制度があります。満18歳未満の子どもがいる世帯や新婚世帯で一定の所得要件を満たすと、家賃が最大20%、上限2万5,000円まで減額されます。
子育て世帯なら最大6年間、新婚世帯なら3年間の減額が受けられ、新婚から子育て世帯に移行することで最大9年間の長期にわたって優遇を受けることが可能です。
また、満18歳未満の子どもを扶養している世帯限定の「そのママ割」では、3年間の定期借家契約で家賃がお得になります。妊娠中の方や孫・甥・姪を扶養している場合も対象となるため、幅広い子育て世帯が利用できる制度です。
ただし、これらの割引制度を適用できる物件は限られています。特に「都市部や人気エリアの物件は対象外となることが多い」という点を押さえておきましょう。
子育て世帯のニーズは従来の賃貸住宅では満たしきれない複雑さがあり、単なる物件紹介だけでは差別化が難しいのが現場です。
そこで、入居者とオーナー双方から信頼され、子育て世帯向け賃貸営業で成果を上げるためのポイントについて解説します。
前述した国土交通省の「子育て支援型共同住宅推進事業」に加え、担当エリアの自治体ホームページや窓口で最新の子育て支援制度をチェックしておきましょう。こうした制度の存在自体を知らないという子育て世帯が多いため、専門的な情報提供ができると信頼アップにつながります。
例えば、入居希望者に対しては・・・
「この物件は国土交通省の子育て支援事業対象設備を備えており、お子様の安全性に配慮した住環境となっています」
といったアプローチが効果的です。
また、ひとり親世帯や低所得の子育て世帯など住宅確保要配慮者に該当する場合は、「住宅セーフティネット制度」の活用も検討しましょう。登録住宅であれば家賃債務保証や家賃補助制度を利用できるため、月々の家賃負担を軽減できます。
このように、制度の内容を事前に調べておくことで、子育て世帯のお客様に対してより専門性の高い提案が可能になります。
子育て世帯の住まいニーズは、子どもの成長とともに変化していきます。現在の家族構成だけでなく、入居期間中に想定される子どもの成長段階を考慮した提案を行うことで、満足度向上と長期入居につなげることができます。
「お子さんが歩き始めるころには、この防音フローリングが近隣への配慮という面で大変重宝すると思います」
といったように、「子どもの成長を具体的にイメージできる説明」が効果的です。
子育て世帯は賃料滞納のリスクが低く、長期入居の見込みが高い傾向にあります。特に、子どもの安全確保を優先する子育て世帯は多いため、物件の安全性を高めるリフォームを行うことで賃料アップも期待できます。
中でも防犯性の高い玄関ドアや窓への交換、転落防止柵の設置など、安全面を重視したリフォームは子育て世帯に特に人気があり、差別化要因として効果的です。
「国土交通省の補助金制度を活用すれば、リフォーム費用のご負担を軽減しながら子育て世帯に人気の安全設備を導入できます」
といったように、オーナーへは経営面でのメリットをアピールする提案を行いましょう。
子育て世帯向けの賃貸営業では、単なる物件紹介ではなく、子育て世帯が抱える不安や課題に寄り添った提案が求められます。行政の支援制度や助成金制度はまだ認知度が低いため、これらの情報を適切に提供できる営業職は高く評価されるでしょう。
本記事で紹介した支援制度の内容や賃貸営業のポイントを活用して、子育て世帯のお客様にとって価値のある住まい選びをサポートしていきましょう!
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