記事公開日:2022/06/02
最終更新日:2022/09/18
不動産会社は、賃借人との賃貸トラブルに巻き込まれることも少なくありません。トラブルの範囲や程度が大きくなり、対処が難しいと判断される場合、弁護士に相談して解決を図ることになります。
賃貸借におけるトラブル解決には、想像以上の手間と労力がかかります。弁護士が介入するとさらに時間も費用もかかるため、賃貸トラブルは避けたいと思うのが心情です。今回は、弁護士が介入しがちな賃貸トラブルと、トラブルを起こさないためのポイントについて解説していきます。
目次
弁護士が介入しがちな賃貸物件のトラブルには、以下の6種類が挙げられます。
それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。
賃貸物件に関するトラブルは、「日本司法センター 法テラス」に多く寄せられています。まずは賃料に関するトラブルの例を見ていきましょう。
賃借人と賃貸人の間で家賃交渉が行われなかった場合、状況によっては弁護士が介入し、法的手続きによって解決を図ることがあります。賃借人の一方的な主張で賃料が下がるケースは少ないですが、日本の経済事情の変化によって不当な家賃設定がなされている場合、家賃が下がるケースもあります。
借家人が家賃滞納をしても、賃貸人や管理会社が勝手に使用を妨げることはできません。なぜなら、賃貸契約を解除しない限り、賃貸人の住む権利は消滅しないからです。勝手な鍵の付け替えなどは不法行為とも考えられ、賃借人から訴えられる場合もあります。
修繕や原状回復義務に関するトラブルも、賃借人との間では起きやすいトラブルのひとつです。
法律上、賃貸人は賃貸物件の修繕義務を負うこととされています。このケースのように、賃借人に依頼をされたら対応する必要があり、賃借人が工事費用を立て替えた場合はその費用を支払わなければいけません。これを無視し続けると、場合によっては弁護士が介入して解決を図る可能性があります。
賃借人が原状回復の責任を負うのは、原則賃借人の住み方や使い方に問題がある場合です。一方、自然災害による損傷は賃借人の責任ではなく、例外を除き賃借人に原状回復義務はありません。このケースのように、家具や家電の置き方に問題があった場合などは、賃借人の責任となり原状回復が必要です。
敷金に関しては、賃借人・賃貸人ともにトラブルが生じやすいといわれています。
敷金は主に家賃の未払いや原状回復費用に充てられますが、必要以上の額が敷金から差し引かれている場合、返還請求がされる可能性があります。賃貸契約書の特約に「原状回復費用はすべて賃貸人の負担とする」などの記載があっても、消費者契約法により無効になるケースもあります。
災害で建物が全壊して貸借人が住めなくなった場合、賃貸人は敷金を全額返還する必要があります。敷金に関する特約を設けていた場合も、原則敷金を返還しなければなりません。
賃貸借契約の内容についても多くのトラブルが寄せられています。
何か特別な事情がない限り、妊娠・出産は喜ばしいこととされています。そのため、子どもが原因で賃貸借契約が解消になるのは、公序良俗に反する理由から無効となるのが一般的です。
賃貸借契約は、賃借人の居住権を保護することに重きを置いています。そのため、些細な債務不履行では解消できません。ただし、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたといえるほど長期の家賃滞納であれば、賃貸借契約の解除が可能です。
賃借人と賃貸人とのトラブルや、賃貸人の責任をめぐる問題にも弁護士が介入し得る可能性があります。
水漏れの原因が上の階の住人による不注意であった場合、下の階の住人は損害賠償請求ができます。しかし、水漏れの原因が特定できないのであれば損害賠償請求をするのは厳しいといえます。
水漏れの原因が上の階の住人による不注意であった場合、下の階の住人は損害賠償請求ができます。しかし、水漏れの原因が特定できないのであれば損害賠償請求をするのは厳しいといえます。
所有する建物に倒壊のおそれがある場合は、賃借人に退去してもらうことが望ましいとされています。実際に建物が倒壊し、賃借人がけがをした場合は損害賠償責任を負う可能性が高いからです。前もって念書を書いてもらっていても、公序良俗に反して無効となるのが一般的です。
賃貸マンションを建て替えるには、入居者全員との合意が必要です。賃借人との合意で賃貸借契約を終了できない場合は、賃貸借契約の解約または正当事由を説明して契約更新を拒絶する必要があります。
原則として、賃貸人の承諾なく借地契約中の賃貸物件を建て直すことは可能です。しかし、契約書内に増改築禁止などの内容が記載されている場合、勝手に建て直すと契約解除の原因になる可能性があります。その場合は、賃貸人または裁判所の許可を得る必要があります。
解決が難しい賃貸借トラブルは、できるだけ起きてほしくないと思うのが心情です。賃貸借トラブルに発展しないためのポイントを3つご紹介しますので、万が一のときに備えてチェックしておきましょう。
入居予定者に対して誠実な対応を取ることで印象が良くなり、些細なトラブルを減らすことができます。親身なコミュニケーションやこまめな連絡、わかりやすい説明など、入居希望者の気持ちを考えながら接しましょう。
不動産賃貸借契約にはさまざまな重要事項が出てくるため、不動産会社・賃借人・賃貸人の三方の認識を合致させる必要があります。賃貸人と賃借人を繋げる立場の不動産営業マンは、双方の認識に違いがないかを確認しなければいけません。
実際に確認すべきポイントは以下の5つです。
上記の内容はどれも重要なもので、認識のズレが生じると大きなトラブルを引き起こしかねません。余計なトラブルを防ぐために、何度も確認し合いながら認識の相違をなくすことが重要です。
トラブルが起こる前に賃借人から相談があれば、大きなトラブルに発展することなく解消できます。事前の相談を受けるには、賃借人との良好な関係づくりが必須です。
良好な関係づくりには、こまめなコミュニケーションが欠かせません。悩みや疑問があれば親身に応じ、信頼関係を築いていきましょう。
賃貸借契約には、以下のようなさまざまなガイドラインが設けられています。
上記の内容を把握しておくことで、実際にトラブルが起きた際も前例の対処法を見ながら対応できます。ガイドラインの内容に法的な根拠はありませんが、これらのガイドブックを参考にして裁判が進むことも多いため、事前に一通りチェックしておきましょう。
参考:国民生活センター 「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」
参考:東京都都市整備局 「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」
参考:国土交通省 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
多くのトラブルが起こり得る賃貸借契約ですが、なかには弁護士に相談するほどのトラブルもあり、できるだけ早い段階で対処しなければなりません。
ただし、賃借人に対して適切な対応を行い良好な関係を築いていれば、弁護士に頼ることなく解決することも可能です。面倒な賃貸借トラブルを避けるためにも、挨拶や定期連絡など、日頃のコミュニケーションに力を入れましょう。